不死鳥の騎士団

□17.蛇の目
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大広間に巨大なモミの木が登場し、廊下や談話室にリボンやリースが飾られ、ホグワーツ全体がクリスマス一色に染められた。

生徒達は隙間風から逃げるように暖炉の周りに集まり、クリスマスの予定を自慢しあう姿がよく見られるようになる。

アンブリッジへの報告を終えて寮に戻ってきたドラコは、下級生の集団を押しのけるようにして指定席に座り、唸るように言った。



「なんでユイの名前がリストにあるんだ」



そのふてくされた顔を見て、ユイは今年は帰る家があったことを思い出す。

マルフォイ家の養子になったことをすっかり忘れていたことを正直に言えば、ドラコは面白くなさそうな顔をした。



「名前は消しといた」

『えっ、そんな勝手に!』

「まさか帰らないなんて言い始めるんじゃないだろうな?父上も母上も楽しみにしてるんだぞ」

『でも、やりたいことがいろいろと……』

「大半は家でもできるだろう。今年は父上主催のクリスマスパーティだってあるんだ。参加しないだなんて許されないからな」

『ス、スネイプ先生も招待されてる?』

「お前は家族とスネイプ先生とどっちが大事なんだ!」

『それは……うん、ごめん。帰ります』

「フン、最初からそう言え」



ドラコがあまりにも必死に言うものだからつい承諾してしまったが、はたして本当にそれでいいのかと疑問に思った。

もちろんマルフォイ家の人達は好きだし、ルシウス主催のクリスマスパーティというのも気になる。


(死喰い人が集まってパーティして、楽しいのかしら?)


まさかとは思うが、ヴォルデモートが来たりする可能性もあるのだろうか。

闇の帝王がケーキを食べている姿なんて、まったくもって想像つかないが、それはそれでものすごく興味がある。


(いやいや、のん気に想像して楽しんでいる場合じゃないぞ私!)


今年のクリスマス休暇は、いろいろなことが起こる。

アーサーが襲われ、ハリーとのつながりがヴォルデモートに知られ、アズカバンから集団脱獄があり、クリーチャーがグリモールド・プレイスを家出する。

正直パーティをしている場合ではない。

アーサーの件に関しては、いつ襲われてもおかしくない状態なのだ。


(例えば、今夜、とか)


ユイが心配した通り、事はその日の夜に起こることになる。







名前を呼ばれた気がして、ユイは飛び起きた。

真夜中にいったい誰がと暗闇に目を凝らし、枕元を探り、音源が指輪であることを突き止める。



『ヴォルデモートが来たの?』

「静かに」



緊迫した声の返事に、ユイは息を殺す。

クィレルから連絡が来るということは、“そういう”ことなのだろう。

今、魔法省で起こっていることを考えるだけで、手が汗ばんでくる。


ヴォルデモートが――ナギニが、神秘部の扉に近づいているのだ。

扉の前には、居眠りをしていているアーサー・ウィーズリー。

ナギニが襲い掛かり、彼の腹に牙を立てる――。


指輪を通して悲鳴が聞こえ、ユイは背筋が凍った。

クィレルはアーサーを援護しにヴォルデモートの前に出て行くわけにはいかない。

ダンブルドアに知らせ、ヴォルデモートが去るのを待ち、いち早く応急処置をするのが彼の役目だ。


(でも、もし、ヴォルデモートがすぐに立ち去らなかったら――?)


アーサーの呻き声が次第に小さくなっていくに従い、鼓動が早くなる。

変化の兆しを、どうして手放しで喜んだりしたのだろう。

すべては複雑に絡み合い、互いに影響を及ぼしあっている。

ダンブルドアが、ユイの記憶を修正してまで過去と現在をつなげようとしていた意味が、今ならよくわかる。

もう、アーサーがギリギリのところで命をつなぎとめる保障はどこにもない。



『呼んで』



ユイは身支度も整えず、杖とカバンを掴んで指輪に話しかけた。



『クィレル、今すぐ私をそっちに呼んで』

「できません」

『いいから呼んで!』



叫んだ直後、ユイの体がホグワーツから消えた。



***
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