不死鳥の騎士団
□11.秘密の魔法
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新学期が始まって最初の土曜日、大広間の天井には澄んだ青空が映っていた。
天気に恵まれた週末をどう過ごそうかと活気づく生徒達の中、ユイは一人ため息をついた。
原因はもちろん、教職員席の隅に座る黒衣の人物だ。
スネイプは、普段と変わらず回りの教師と話をすることもなく、淡々と食事を取っている。
熱い視線を送り続けていると、こちらに気づいてくれたが、ユイが手を振るよりも早く目をそらされてしまう。
『ひどっ』
「あんたまたなんかしでかしたの?」
ドラコとクィディッチ練習の見学に行く約束を取り付けていたパンジーが、哀れみの目をユイに向ける。
“かわいそうに”というよりは、“懲りないやつ”とバカにされている印象が強い。
ドラコも同じような目を向け、鼻を鳴らした。
「このまえのすっぽかし事件だろ?」
『う……それを言わないで……』
「普通すっぽかしたら、罰則は厳しくなるんじゃないの?」
「ユイの場合は、これが1番効くんだろ」
「さすがスネイプ先生、わかってらっしゃるわね」
『酷過ぎるわ……』
ユイはがっくりと肩を落とした。
(1週間が、長い……)
スネイプに与えられた罰則は、“閉心術の指導開始を1週間遅らせる”というもの。
――そのはずだった。
だが、それだけでは罰則としては不十分としたスネイプが、1週間の出入り禁止を言い渡したのだ。
授業以外でスネイプのテリトリーに入ることを禁じられたユイは、3日目をすぎたあたりから禁断症状が出始め、“変な監督生”としてある意味一目置かれる存在になりつつあった。
スリザリンの1年生に、“バカと天才は紙一重”と囁かれていることをユイは知らない。
『ドラコ、ポリジュース薬作るから髪の毛ちょうだい』
「は?」
『変身して質問しに行ってくる』
「冗談じゃない。僕を巻き込むな!それから1年生もだ。監督生の権限を乱用して変な講義を始めるな!」
『監督生権限使って威張り散らしているドラコには言われたくないわ』
「スネイプ先生講座なんてわけわかんないものを無理やり聞かせるよりよっぽどマシだ!」
『寮監を尊敬するのは大切なことよ!』
「方向性間違えてるだろ!」
ドラコのセリフに、周りにいた生徒の数名が大きく首を縦に振った。
突然談話室で始まるユイの演説に、ここ数日で何人もの生徒が犠牲になっている。
宿題を手伝ってもらおうと軽い気持ちで声をかけたはずが、いつの間にか話題がスネイプのことに変わっているのだ。
おかげでクラッブとゴイルは、ドラコが気づいて指摘しなければ、月長石のレポートにスネイプの腰のくびれのことについて書いて提出するところだった。
「ユイ……あなたって、本当に残念な人ね」
『そこまで言わなくてもいいじゃない』
「そんな馬鹿なことやってる暇があったら、次の授業でまたスネイプ教授に褒めてもらえるように1人で勉強でもしてなさいよ」
『もちろんそのつもりよ!じゃ、私は図書館に行ってくるね!』
「夜まで帰ってこなくていいわ」
ため息に見送られながら、ユイは大広間を後にした。
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