不死鳥の騎士団
□3.プリベット通り
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ジリジリと照りつける太陽の下を、ハリーは行くあてもなくマグノリア通りを歩いていた。
どこかの家からラジオの音が聞こえてくる。
明日は37度になるだろうというニュースを右から左へと聞き流し、空き地の真ん中にある公園を見つけ、柵を乗り越えて中に入った。
乾ききった芝生を踏みながら端まで歩き、ブランコに腰かけてぼんやりと公園内を見つめる。
中央に回転するイスのような遊具があるこの公園は、ハリーが初めてシリウスを見かけた場所だ。
大量殺人犯としてアズカバンに投獄され、ハリーの命を狙っていると思われていたシリウス・ブラックは、ユイのおかげで釈放され、今ではハリーの唯一の家族だ。
今年こそ名付け親と一緒に暮らせると思っていたのに、あの墓場で起こった出来事のせいで全てがめちゃくちゃになってしまった。
(ユイ、大丈夫かな……)
ハリーの血を奪って復活を果たした闇の帝王は、軍団を再構築する手始めにとばかりに、ユイに闇の印をつけた。
あの日から、ハリーはユイの声を聞いていない。
スネイプは2週間で意識が戻ると言っていたが、1ヶ月以上たった今も、ユイから連絡はこない。
スネイプやダンブルドアなら何か知っているかもしれないが、スネイプがハリーに何かを教えてくれるとは到底思えなかったし、ダンブルドアもハリーをプリペット通りに押し込んだきりなんの音沙汰もない。
ロンもハーマイオニーもシリウスもユイの安否はわからないようで、フレッドとジョージの“姫奪還作戦”を決行するしかないのではないかとハリーは思い始めていた。
それなのに、ハリーは何の情報も得られないダーズリー家に軟禁状態だ。
(ヴォルデモートが復活したっていうのに)
ハリーがいなければ誰もヴォルデモートの復活を知らなかったというのに、この仕打ちはあんまりだ。
しょっちゅう痛む額の傷と悪夢とに、ハリーは毎晩1人で戦わなければならなかった。
夢では、必ずと言っていいほど墓場の場面と、長い暗い廊下、それから冷たい笑みを湛えてハリーに杖を向けるユイが登場する。
フレッドとジョージには“ユイは友達だ”と宣言したし、ハリー自身ユイとは友達でいたいと思う。
いつだってユイはハリーを助けてくれた。
それはまぎれもない事実なのだが、ヴォルデモートがユイに興味を示していることも事実だ。
ヴォルデモートとユイの間にある、秘密めいた関係を示唆するような言動を見聞きしているのはハリーしかいない。
だから、ハリーは他のみんなのように素直にユイを信じることができず、それが夢となって映像として現われているのかもしれない。
「みんな、帰る時間よー」
近所の子どもが母親に呼ばれて家に戻っていく姿を見て、ハリーは自分の影に視線を落とした。
(父さん、母さん――)
墓場で見た両親の姿が思い出される。
ハリーから両親を奪ったヴォルデモートが戻ってきた。
それなのに、ハリーは魔法界で何が起こっているのかを知ることさえできない状況にいる。
理不尽さに、ハリーの中に怒りが込み上げてきた。