アズカバンの囚人
□17.守護霊
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シリウスが戻ってきて、ユイの呪文の習得スピードは格段に上がった。
アニメーガスになるのも、シリウスに手伝ってもらわずとも8割方変身できるようになってきた。
相変わらず監視の目は厳しく、頻繁に訪れることができたわけではなかったが、それでも以前に比べて学べることは増えた。
新学期を1週間後に控えた寒い朝。
新しく覚えた呪文を試すためにユイがハグリッドの小屋を訪れると、そこには目を赤く腫らしたハーマイオニーがいた。
『ど、どうしたの!?』
「まあ、ちぃっとばかし……いろいろあってな」
驚くユイに、頭をかきながらハグリッドが事情を説明した。
「ファイアボルトの件だ」
『え?』
「ハーマイオニーは、その――おまえさんのせいにするのが耐えられなくなったんだとよ」
ハーマイオニーはハリーのファイアボルトが取り上げられるまでに至った経緯を、クリスマスの次の日には2人に打ち明けていた。
そのため、ハリーとロンからおせっかい者としてつまはじきにされているのだ。
『どうして言っちゃったのよ』
「だって、2人があまりに文句を言うから……ロンなんて四六時中言ってるのよ?」
『別にかまわなかったのに……ハーマイオニーは優しいね』
優しくて真っ直ぐで勇敢で、グリフィンドールにぴったりだ。
『それに比べて男共は……子どもっぽくて駄目ね』
「ユイって意外と毒舌なのね。……ねえユイ、実は、1つお願いがあるの」
ハーマイオニーは申し分けなさそうな顔で、もじもじと手を動かしている。
「私、このことをユイにお願いするためにハリー達にファイアボルトのことを言ったわけじゃないのよ。これは、昨日、思いついたことなんだけど……」
目線があちこちと移動している。
ユイが先を促してもハーマイオニーは「あー」とか「うー」とか言って口ごもり、なかなか用件を言わない。
隣で見ていたハグリットが、見かねて「うぉっほん」と大きな咳払いをした。
「あー、よし。わしが言おう」
ハグリッドは毛皮や罠やえさなどがごちゃごちゃと置かれたテーブルをあさり、1枚の紙を見つけるとユイに差し出した。
『これって――』
「バックビークの裁判が行われるんだ!」
ハグリッドは今にも泣き出しそうな声を出す。
震える声で、危険生物処理委員会の悪口を言い、バックビークを援護するためにハーマイオニーが必死になっていることも説明した。
「このままじゃ死刑になっちゃうのよ」
ハグリッドにつられて、ハーマイオニーも泣き出しそうになる。
「怪我をしたあなたに頼むのは気が引けるんだけど……」
「頼む。バックビークのために弁護してくれ!」
バックビークが悪かったのではないと、被害者自らが証言台に立てばこれほど有効な弁護はない。
ハグリッドは机に額をぶつけるほどの勢いで頭を下げた。