秘密の部屋

□2-* 親父にもぶたれたことないのに!
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パシンっ――

乾いた音が競技場に響き、その場にいた者達の時間が停止した。


頬が熱くなるのを感じで、ああ、殴られたんだとドラコは気づいた。


(なんなんだ)


ユイの姿が見えなくなっても、ドラコは頬を押さえて立ち尽くしていた。

ハリーがロンに付き添ったことでグリフィンドールチームがクィディッチの練習をすることができなくなり、競技場はスリザリンのものになったが、ドラコにはもうどうでもよかった。

生まれてこのかた、ドラコは誰かに頬を殴られたことなどなかった。

ホグワーツの生徒はもちろん、ルシウスやナルシッサも、怒りに任せてドラコに手を上げるような野蛮な真似はしない。


(なんで、僕がユイに殴られなきゃいけない)


父上に言いつけてやるとか、やり返してやるとか、そういった気持ちには不思議とならなかった。

ただ“なぜ?”という気持ちだけがドラコの心を占めていた。


グレンジャーの両親はマグルだ。

魔法族の血が流れていないのだから、穢れた血で間違えていない。

周知の事実だ。

言って何が悪い――。

純血一族の中で育ってきたドラコには、マグル生まれを穢れた血と呼ぶのがなぜいけないのか理解できなかった。


(先に僕を罵ってきたのはグレンジャーなのに)


僕が父上の力と金の力を使ってチームに入ったと周りに思われているなんて分かっていた。

チームのメンバーも僕に気を使っているのがわかる。

でもそれは、僕に一目置いているからとかではなくて、父上に対するものだ。

分かってはいても、直接言われたら腹が立つに決まってる。

それに対して言い返すのは殴られるほど悪いことなんだろうか。


(なんで……)


ドラコの頭からは、その日1日姿を見せなかったユイのことが離れなかった。

選手に選ばれたことを祝い、練習の賜物だと喜んでくれたユイの顔と、ドラコに『2度といわないで』と言った顔が交互に脳裏に浮かぶ。


(なんでユイが泣きそうな顔してるんだっ)


クィディッチの練習が終わり、ドラコは急いで寮に戻ったがユイの姿はなかった。

図書館と医務室にもいなかった。

スネイプ先生が先程出かけていくのを見たから、地下牢教室で薬を煎じているわけでもないだろう。

念のため見に行ったが、ユイの姿はなく、他にユイが行きそうな場所を知らないドラコは途方にくれた。


思えば、彼女のことを何ひとつ知らない僕がいた。

両親は亡くなっていると聞いた。

彼女も実はマグルで、気にしているのだろうか。

だとしたら、自分が言った言葉で彼女が傷ついた表情を見せたのも納得がいく。


(ユイを傷つけるつもりはなかったんだ)


ドラコは、明日会ったらユイにどう謝ろうかと考え眠れぬ夜をすごした。



***



『ドラコ、昨日はごめんなさい』

「は……?」



次の日、ドラコの前に現れたユイは、ドラコの気も知らず、どんな理由があるにしろ手を上げたのはよくなかったと詫びてきた。



『それだけ。じゃあパンジーが待ってるから先に授業行くわね!』

「……」



いつも通りのユイに戻っていることに対する安堵と、振り回されていることに対する疲れからか、ドラコは大きくため息をついた。

仕方がないから、グレンジャーに事実を伝えてくれたことへの礼として、ユイの前でだけはあの言葉を使うのはやめてやろう、そうドラコは誓った。

ユイに嫌われたくないとか、ユイのためではないと自分にいいきかせながら――。



***
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