秘密の部屋
□2-2 隠れ穴
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奇妙な屋敷しもべの登場により、ハリーの気分は最悪だった。
ユイの手紙を見て、荷物はすべて部屋にまとめてある。
しかし、肝心のナイト様が誰なのか、どうやって助けに来てくれるのかがまったく検討がつかない。
(僕、本当に助けてもらえるのかな……)
もう一生ここから出られないかもしれないと思ったそのとき、外からブルンブルンというエンジン音のようなものが聞こえ、ガタガタと何かが揺さぶられるような音が続いた。
ハリーが窓に目を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
ハリーの部屋は2階だというのに、窓の外には青い車がぴったりと停車していたのだ。
空飛ぶ車の登場に、ハリーは興奮して窓際に駆け寄った。
「ロン!……ナイト、そうか、君はナイトだ!」
ハリーは賢者の石を求めて罠に挑んだときの仕掛けの1つ、魔法使いのチェスのことを思い出した。
あのときユイはあの場にいなかったので、ロンがナイトのコマをやっていたとは知らないはずだったが、嬉しさのあまりハリーはそこまで頭が回らなかった。
「よう、ハリー、元気かい?」
「ご救出に参りましたよ、姫君?」
ハリーがロンをナイトと言ったためか、ジョージは悪ノリしてハリーのことを「姫君」と呼び、フロントガラス越しにうやうやしく手を上げた。
フレッドが笑いながらロープの端をハリーに放ってよこした。
「ハリー、それを鉄格子にまきつけろ」
「おじさんたちが目を覚ましたら、僕はおしまいだ」
「任せろって」
不安がるハリーがロープを鉄格子に硬く巻きつけるのを確認し、フレッドは車を発進させ鉄格子を窓から外した。
「よし、次は荷物だ。準備してるね?」
ジョージの言葉にハリーはうなずき、こっそり準備しておいたトランクをベッドの下から引っ張り出した。
最後にヘドウィグのかごを持ちハリーが後部座席に乗るのを確認すると、ジョージがフレッドにささやいた。
「オーケー。行こうぜ」
フレッドがアクセルを踏み、車はつきに向かって急上昇した。
ハリーは車のウィンドウを開け、夜風に髪をなびかせながら叫んだ。
「ありがとう3人とも!これで僕は自由だ!」
あとは、ヘドウィグを放してあげられれば最高なんだけど……と呟くハリーに「任せとけ」とジョージが手をだした。
手に持ってヘアピンで器用に鍵を開ける姿にハリーは舌を巻いた。
舞い上がる白い翼をミラー越しに見ながら、「お礼はラプンツェルのほうの姫に」とフレッドが笑った。