秘密の部屋

□19.バレンタイン
1ページ/4ページ

雪がとけ、日差しが柔らかくなるのに合わせるように、ホグワーツの中にはわずかに明るいムードが漂い始めた。

その理由はもちろん、ジャスティンとほとんど首無しニック以来誰も襲われたはいなかったうえ、マンドレイクの2度目の植え替えが近いという知らせが入ったからだ。

けしてロックハートのバレンタインイベントのおかげなどではない。







2月14日――。

ハートの紙ふぶきが舞い、壁という壁がけばけばしい大きなピンクの花で覆われた部屋に、朝食をとりにきた生徒たちは誰もが一度入り口で立ち止まった。

互いに顔を見合わせ「ここは大広間だよね?」と確認をしてから、ひきつった顔で各寮のテーブルへと向かっている。

想像以上にひどい装飾にユイも例に漏れず顔をひきつらせてスリザリンのテーブルへ行くと、ほぼ全員が眉間に皺をよせて食事をとっていた。

あのにぶいクラッブとゴイルでさえ、ベーコンに紙ふぶきがトッピングされるのを見て嫌悪感を露にしていた。



『ロックハート教授?』



ユイが聞くと、ドラコは無言でうなずき職員席を指した。

部屋の飾りにマッチした、けばけばしいピンクのローブを着たロックハートが、手を挙げて「静粛に」と合図しているところだった。

ドヤ顔のロックハートの両側に並ぶ先生方は、石のように無表情だ。

マクゴナガルの頬はヒクヒク痙攣しており、ダンブルドアでさえ苦笑いをしている。


(あれ?教授もいる。来ないほうがいいって言ったのに……)


昨日の夕方、ユイはスネイプにレポートの質問に行ったついでに『明日は大広間に近づかないほうがいいですよ』と忠告していた。

にも関わらず、スネイプはロックハートの2つ隣に座っている。


(実はイベント好きとか?……なわけないか)


「バレンタインおめでとう!」



ロックハートは叫んだ。

得意気に46人からカードをもらったことを宣言し、ポンと手を叩く。

玄関ホールに続くドアから、金の翼をつけ、ハーブを持った無愛想な顔をした小人が12人ゾロゾロ入ってきた。


(うわぁ、かわいくないー)


「私の愛すべき配達キューピッドです!今日は学校中を巡回して、皆さんのバレンタイン・カードを配達します」



ロックハートが笑顔で宣言するといっせいに生徒たちの顔が――もちろん、うっとりとロックハートを見つめている女子は除く――曇った。

なんて迷惑なことを、と思っているに違いない。



「そしてお楽しみはまだまだこれからですよ!先生方もこのお祝いのムードにはまりたいと思っていらっしゃるはずです!さあ、スネイプ先生に“愛の妙薬”の作り方を見せてもらってはどうです!ついでに、フリットウィック先生ですが、“魅惑の呪文”について、私が知っているどの魔法使いよりもよくご存知です。素知らぬ顔をして憎いですね!」



名前を挙げられ、フリットウィックはあまりのことに両手で顔を覆った。

スネイプのほうは妙薬をもらいに来た最初のやつには毒薬を無理やり飲ませてやるという顔をして――ユイのほうを見た。



『うぇ、なんで私が睨まれるのよ』

「ユイ、愛の妙薬もらいに行ったのか?」

『行くわけないでしょう!』



からかうドラコに即答し、ユイはスネイプの視線から逃げるようにシリアルを掻き込んだ。







午後の授業が始まるころには、ユイの手にはカードの束が出来上がっていた。



「ちょっといいかんげんにして!」

「あなたに用はありません。ユイ・モチヅキにメッセージです」



また1人やってきた小人にパンジーがたまらず杖をむける。

本来であればパンジーやドラコと行動を共にするユイに直接カードを持ってこようとする他寮生などいないのだが、小人が持ってくるとなると話は違ってくる。

睨もうが蹴ろうがお構い無しに次々とカードを持ってきた。


授業中だろうがなんだろうがかまわずユイにカードを渡しに来る小人に、パンジーはいらだっていた。



「ユイ、なんとかしなさいよっ」

『私に言われても……』



15枚目のカードが届いたところで、パンジーは「今日は別行動よ」と言って先に行ってしまった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ