秘密の部屋

□08.幽かな声
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ツカツカと大またで足を進めるユイは、途中で何人かの生徒に話しかけられたが何も答えることなく真っ直ぐに地下を目指した。







近づいてくる足音にスネイプは顔を上げて時計を見る。

もう、クィディッチの練習が終わってもいいころだ。

ノックと共に名前を呼ばれるだろうと机の上を片付けて鍵を開けにドアへ向かう。

ついでにドアも開けておくと、まもなくして足音の主が現れた。


ユイの姿は、一目で失敗したんだろうということが見て取れる状態だった。

いつもなら必ず5回ノックをする手はぎゅっと握られ、名前を呼ぶはずの唇はふるえ堅くとざされている。

斜め下を見る目には生気がなく、普段見せる強い意志のかけらも感じられない。


開いたドアの前から動かないユイの横に立ち、スネイプがドアを閉めると、バタンという音にあわせて堰を切ったようにユイの目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ始めた。



「!?」



突然の涙に、スネイプは激しく動揺した。

目を開け、口を閉じたまま静かに涙を流し続けるユイにどう声をかけたらいいのか分からずに言葉を詰まらせる。

怒られた生徒が恐怖に顔をゆがませて泣くのはよく見ていたし、泣かれたところで煩わしいと思うくらいだった。


(だが、これは――)


恐怖とも悲しみとも違う表情で涙を流すユイを前に、どうしていいか分からずスネイプは立ち尽くした。

去年も確か泣かれたことがあったなと思い出し、そのときはどう対処したか記憶を探る。

だが、すぐに無意味なことだと悟り諦めた。

平日であれば授業を理由に寮へ返すことも出来るが、あいにく今日は土曜日で授業がない。


(何を考えているんだ)


授業があればよかったとこの状況から一瞬でも考えた自分に心の中で舌打ちをする。

どういう経緯で失敗したにせよ、自分を頼ってきたものを追い返すことを第一に考えるとは我ながら冷たい男だ。


(だからといって、何をしてやれるわけでもないが――)


自分の経験のなさにあきれていると、左肩が引っ張られるような感覚に陥る。

重さの原因を探って目を向けると、下を向いたままのユイが、ローブの端をきゅっと遠慮がちに握っていた。



「何をしている」



自分の口から出た言葉があまりにも冷たく突き放すもので、スネイプは顔をしかめた。

だが、ユイは気にする様子もなく、そのまま上体を倒してこつんと頭をスネイプの腕にぶつけてきた。



「チッ……」



どうしてこうも自分の苦手な状況に進むのだ。

スネイプはため息をつき、固まる寸前の頭をなんとか回転させた。


が、結局何もいい言葉は思いつかず、ため息をついて腕をあげた。

さらさらのストレートの黒髪に手を沿え頭を自分の体の中心へもってくる。

よろけるユイにあわせて体勢を変え抱きとめると、普段の大人びた考え方からは想像もつかないような小さな体はすっぽりとスネイプの腕の中に納まった。
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