番外編
□8-6 ナイトメア
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気がつくとスネイプは知らない場所にいた。
どこかの屋敷のようだ。
殺風景な部屋に、ポツポツとランプの炎が浮かんでいる。
刹那、そのうちの1つが大きく揺らめいた。
赤く大きく燃え上がった炎は周囲に熱と光を撒き散らし、ガイコツとヘビを掛け合わせたような男を吐き出した。
「ああ……セブルス、我が友よ……よく来た」
青白い肌、そぎ落とされた鼻、赤い眼。
そしてこの、他者を震え上がらせる冷酷な声。
闇の帝王、ヴォルデモート卿が、そこに立っていた。
「驚くのも無理はない。愛とやらが勝利したらしいからな」
ヴォルデモートがニタリと笑った。
ぞっとするほど残虐な笑みだ。
スネイプはあまりの恐ろしさで微動だにできなかった。
底知れぬ恐怖が鋼鉄の糸となってスネイプにまとわりつき、その場に縫い付けているようだった。
「見事だセブルス。褒美をやろう。死者の国から連れてきてやった」
別の炎がボッと音を立て、燃えるような赤毛の女性が出てきた。
死んだときの姿のまま、エメラルドグリーンの瞳は何も映していない。
「裏切り者にふさわしい、穢れた女だ。好きにするがいい。代わりに俺様はその娘をもらっていく」
このとき初めて、自分の背後に人がいることに気づいた。
それが誰だかわかった瞬間、スネイプの体は呪縛から解き放たれた。
前に出てこようとするユイを引きとめ、手を広げて背中に隠す。
「わ、我が君……私は……」
「どうした、セブルス。泣いて懇願した女をついに手に入れられるのだ。嬉しかろう」
『そうですよ教授。私なんて本当は存在しないんですから、気にせずリリーとやり直してください』
「馬鹿を言うな!」
思わず叫んだスネイプを見て、ヴォルデモートが高笑いする。
「馬鹿はどちらだセブルス。たかが穢れた血の命1つで俺様を裏切るとは愚かな……。しかし俺様は慈悲深い。お前の過ちを許そう。やり直すのだ、あのときから――入れ替えようではないか」
「我が君!」
「俺様はその娘を使って世界を取る。貴様は穢れた血と地獄へ落ちろ」
スネイプが杖を構えると同時に、ヴォルデモートの腕も上がった。
一瞬の出来事だった。
『話が違うわ!』という叫び声。
わき腹への衝撃。
そして、自分のすぐ横で弾けた緑色の閃光。
「――ユイ!」
自分の内から発した叫び声にガツンと殴られ、スネイプは目を覚ました。