番外編
□8-6 ナイトメア
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『や、えっと、今のなし!びっくりしただけです!よろしくおねがいします!』
お辞儀とともに手を出すユイの顔は耳まで赤い。
どうやら彼女も愛されなれていないという点では同じらしい。
多方面から求愛されているくせにおかしな話だ。
『あっ、待ってください!手、繋ぎたいです!なんなら手首でも!』
眉根を寄せるだけにとどめて先を急げば、謝りながらちょこまかついてくる。
手を繋いでるよりこちらのほうが良い気がするのだから、やはり自分は歪んでいると思う。
しかしそのくらいで丁度良いのかもしれない。
腕を組まずとも、歩みを揃えることは出来る。
それが同じ道を並んで歩く者の特権だ。
『何かあったんですか?』
玄関ホールに入ったところでユイが聞いた。
『珍しいですよね。こんな時間に見回りなんて。悪い夢でも見ました?』
「……いや」
『それならいいんですけど』
そっけなく言ったユイが、おもむろにスネイプの左手を攫う。
先ほど奇声を発して石化した者の行動だとはとても思えない。
驚きを隠して黒い瞳を見下ろすと、ユイは両手で包み込んだスネイプの左手を持ち上げて祈るようなポーズを取った。
『もし嫌な夢を見たら、すぐ教えて下さいね』
「……断る」
『他人に話すと正夢にならないんですよ』
「迷信であろう」
『迷信を馬鹿にしちゃダメです。気の持ちよう、大事です!』
「では君だけ信じていればいい」
するりと手を引き抜いたスネイプを、『はーい』という間延びした声が追いかける。
この発言がきっかけで校長室に巨大なバクの抱き枕が届き、ダンブルドアにからかわれることになるのだが、このときのスネイプは知る由もない。
わずかに口の端を緩め、少し早めの朝食をとるために大広間へ向かった。
Fin.
→あとがき