番外編

□8-6 ナイトメア
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「……またか」



口から漏れた音は酷くかすれていて、声と呼べないようなものだった。

周囲を見回し、自分がホグワーツ魔法魔術学校の校長室にいることを確認しても、動悸はなかなか収まらない。

べたつく髪をかきあげ、深呼吸をしたところで、ようやく瞬きができるようになる。

次に口から出たのは、大きなため息だった。


悪夢を見るのはこれが初めてではない。

5月のあの戦いの後、スネイプは幾度となく悪夢にうなされていた。

殺される夢、他人に奪われる夢、愛想をつかされる夢――。

忘れた頃にやってくる夢は、ありとあらゆる方法でスネイプから彼女を奪っていく。


しかも夢を見るのは決まって明け方。

窓の外は必ずと言っていいほど晴れていて、太陽が顔を覗かせる直前の、薄く紫がかった空と、底面だけ色づいた雲が不気味なコントラストを織り成している。

まるで自分の中の奥深くで、何かが警鐘を発しているようだ。


(……くだらん)


たかが夢。

単なる偶然だと頭を振り、熱いシャワーを浴びて向かった先はユイの部屋。


いったい自分は何をしているのか。

こんな時間に起きているわけがないし、起こす口実もない。

それでも偶然ばったり出くわすことを期待し、その場にしばし留まってしまうなんて笑うしかない。



踵を返したスネイプは、校長室に戻る気にもなれず外へ出た。

朝もやがかかる校庭は平和そのもので、死の匂いなどどこにもない。

静寂の中にしばし佇んだ後、腕時計を見るように左手首を持ち上げ、鈍く光る腕輪を撫でる。


今日から新学期。

ユイは管理人見習いとしてホグワーツで働くことになる。

それはつまり、彼女に恨みを持つものに、ここに来ればいつでも敵を討てると知らせることに等しい。


もしかしたらあの夢は、そういった類の不安が見せているものなのかもしれない。

もちろん危険は全て校長である自分が廃除するつもりでいる。

しかし四六時中一緒にいられるわけではないし、スネイプが傍にいることで、余計な危険を呼び込む恐れもある。
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