番外編

□[後日談/IF]ドラコ・マルフォイの恋愛相談室2
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「どこへ行っていた」



煙突飛行で戻ったその先にその人はいた。

いつもと変わらぬ出で立ちに、ほんのちょっとの怒りを添えて。

腕を組み、仁王立ちし、ユイを見下ろしている。



「外出の申し出は受けていない」

『そんなの必要でしたっけ……?』

「我輩はホグワーツ魔法魔術学校の校長で君は――」

『職員ですそうでした勤務場所を離れる際は報告義務がありますねごめんなさい!』



ゆらりと立ち昇った不機嫌なオーラに身の危険を感じ、ユイは平謝りした。

今日は土曜日だとか、ここ私の部屋なんですけど勝手に入ったんですかとか、言いたいことはいろいろあったが、正論をぶつけたところでスネイプの機嫌が直るわけではない。

ユイが今後もホグワーツで働くためにはスネイプの言い分を受け入れ、ひたすら謝るしかないのだ。



「で?」

『で……とは?』

「どこへ、行って、いた」

『家ですドラコのところです!』



顔を近づけるの禁止!と後ずさるが、すぐにマントルピースに背をぶつけて距離をとれなくなる。



「用件は?」

『ちょっとした相談です。たいしたことじゃないので気にしないでください』

「それほどまでに恋人の対応が不満か」

『へっ!?』



まさかの台詞に変な声が出た。

恋人。

そう言っただろうか。

いや間違ってはいないのだが。

あの堅物のスネイプが自ら口にしたという事実が信じられない。

しかも“対応が不満”とは。



「隠し通せると思っていたのか度々城を抜け出し戻ってきては君らしからぬ行動に出て――我輩のリードに不十分な点があるから不満を吐き出しに行っているのであろう」

『不満なんてないですよ!』

「では何の相談だ」

『それは……』

「言えぬのであれば直に聞きに行くまでだ」

『ダメダメダメ!言います!言いますから!』



今にも暖炉に飛び込みそうな黒いローブを押さえ、全力で顔を横に振る。

こんな状態のスネイプがマルフォイ邸に乗り込めば、まず間違いなくルシウスに気づかれる。

そしてからかわれる。

不機嫌度が上がったスネイプの八つ当たり先は間違いなくユイだ。

しばらく口を利いてもらえなくなるかもしれない。


それは困る。

だから仕方なく教えた。

蚊の鳴くような声でボソボソ言うと、スネイプの顔から怒りが消え、代わりに呆れが現れた。



「ユイ、その顔の中央についているものは飾りかね」



フンと鼻を鳴らしたスネイプが「鼻で呼吸をすればいいであろう」ともっともなことを言う。



「それとも東洋人の低い鼻は呼吸に向かないとでも言うのかね」

『そんなわけないじゃないですか!』

「ではやってみたまえ」

『うぇ!?』

「口を閉じろそして息を吸え」



何を思ったのか、スネイプは仁王立ちしたままユイに鼻での呼吸を命じた。

キスされるのかと思った緊張を返してほしい。

何が悲しくてこの年になって好きな人の前で鼻呼吸の練習をしなくてはいけないのだ。



『そういう問題じゃないんです……』

「シーッ」



抗議の言葉を発した口に、ふいにスネイプの人差し指が添えられた。

その行為に、言葉に、そして子どもにするような動作とは対照的な大人の色香を纏った瞳に、一瞬で体の自由を奪われた。


(なんでこんなことに!?)


心臓が暴れ出すのに比例して体が求める酸素の量が増え、だんだん苦しくなってくる。

必死で呼吸をすることで荒くなった鼻息がスネイプの指にかかっているのだと思うと恥ずかしくなり、ますます鼓動が早くなる。



『あ、あの、これいつまで――』

「黙れ」



指を無視して言葉を発した途端、手のひら全体で口を覆われた。



「慣れたまえ。克服したいのであろう」



もはや何のことを言っているのかわからなかったが、ユイはコクコク頷いた。

するとスネイプはそのままグッと顔を近づけてきた。

大きな鉤鼻の先がユイの鼻頭に当り、長い前髪が垂れて左右の頬をくすぐる。

視界の全てがスネイプで埋め尽くされ、心臓はもはや爆発寸前だった。


(し、死ぬ……!)


かろうじて呼吸はできているが、このままでは心臓が持たない。

そのことを訴えようとローブを握ったところで、ようやく口周りを覆っていた熱が消える。

しかし。

たっぷり空気を吸い込めると思った口には、既に別のものが押し当てられていた。

距離が近すぎて目に入らないが、この状態で手に変わるものなんて1つしかない。



『ちょ、きょ』

「同じだと思え」

『そ、な』



そんな。

無理だ。

無茶苦茶だ。

手と唇を同じだなんて思えるはずがない。


突然のキスに驚いている間に後頭部を抑えられ、押しつけられていただけだった唇は啄ばむような動きを始めている。

されるがままでいい、手でも回しておけというアドバイスに従ってローブを握っていた手を肩に添えると、急に噛み付くようなキスに変わり、唇をこじ開けられた。


激しいキスにユイがパンクするまでそう時間はかからなかった。

プシューと頭から煙がでる勢いで力が抜け、その場にしゃがみこむ。

一方のスネイプはケロッとしたものだ。



「君を指導するのは今も昔も我輩の仕事だ理解したら次回以降は我輩に直接言え」



何がどう繋がるのかわからないことを言い、ユイを引っ張りあげてちゅっと触れるだけのキスをして部屋を出て行く。

理解したのはただ1つ。

スネイプは顔に似合わず情熱的で、ユイが思っているよりもずっと大人の余裕を持っていたということだ。





Fin.
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