番外編

□7-18.5 医者の不養生
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「起きたなら飲みたまえ」



さっと手を離し、ゴブレットを押し付ける。

ユイはだるそうに起き上がり、周囲を見回した。



『あれ……ここってもしかして昔の教授の……?』

「さよう。隔離をと言ったのは君であろう」

『自分の部屋で十分隔離されてたのに……』

「あのまま我が輩が女子寮に居座ればどんな噂が立つか考えてみたまえ」

『たぶん熱のせいだと思うんですが……教授が看病してくれるって聞こえます』

「そう申し上げている」

『えっ、だ、ダメですようつります!』

「そう思うのであればそれを飲んで大人しくしていたまえ」



ぶっきらぼうに言い、催促するようにあごでしゃくる。

きっかり2杯分、飲み干すまで見張っていると、ユイは『錠剤って偉大ですね』と呟き、なぜか真っ赤になって俯いた。



『あの……』

「なんだ」

『着替え、教授がしたんですか……?』

「しもべ妖精に決まっているであろう馬鹿者が」



空になったゴブレットをひったくったスネイプの口から、ため息とも一息ともつかないものが出る。



「次は食事だ」

『うぇっ、もうお腹いっぱいというか食欲がないというか……』

「ほう?長引けば君の仕事ひいては我輩の仕事に影響が出ると知ってのご意向ですかな?」

『た、食べます!』



両手を差し出したユイにしもべ妖精が持ってきたスープを渡す。

『また液体……』とブツブツ言いながらも食べ始めたユイのスプーンを持つのすら辛そうなのは気のせいではないだろう。



「食べたら寝ろ」



皿を回収し、頭を押してベッドの中に押し込むと、乱暴だなんだと文句を言いながらもユイは大人しく横になった。



『手洗ってくださいね』

「ああ」

『あとうがいも』

「言われずとも」

『もう見に来なくて大丈夫です』

「君が医務室へ行くと言うならそうしよう」

『自分でなんとかできますから』

「なんとかできるのであればこうはなっていないというのが我輩の意見だ」

『でも教授にうつったら大変です』

「問題ない」



風邪くらいどうってことはない。

自分はもっと重く苦しいものを共に背負ってもらっている。

決して口にすることができない思いは心にしまい、「我輩は君ほど不摂生ではない」と取ってつける。



「ウイルスに接触したものがみな発病するわけではないことくらい君でもわかるであろう」

『でもインフル菌は強力ですし……』

「そのインフルエンザだが――不思議ですなあ、この閉鎖空間であるホグワーツ城で君だけがかかるとは――実に興味深い事案だ」

『なんでそんなに怒って……言っておきますけど外には出てないですよ!?』

「ほう……では風邪を引いたにもかかわらず食事も睡眠もろくにとらなかった結果悪化しインフルエンザ同等の全身症状が現れたと――そう考えるほかないでしょうな』

『うっ』

「参考までにここ数日の睡眠時間をお聞かせ願えますかな?」

『……ぐう』



布団にもぐり寝たふりをし始めたユイにスネイプは呆れた。

あまりに幼稚な対応だ。

が、何と言ってやろうかと考えているうちに本当に寝始めた。

その間わずか1分。


起きているのもつらかったのだろうと思うと悪いことをした気分になる。

責めるのは後でもよかったかもしれない。



「一刻も早く治したまえ」



治り次第、心ゆくまでいびってやる。

無意識に口角を上げたスネイプは布団に手を沿え、そっと叩くようにしてから翌日の欠席を伝えるために教師陣の部屋へ向かった。





Fin.
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