番外編

□2-20.5 [IF]貴族の戯れ
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『あ!スネイプ先生!』



階段にはまったまま30分を過ごしたユイは、真っ黒いローブのはためきを見て大きな声を出した。

これで助かる――。

そう思えたのは、一度は通り過ぎた黒い塊が戻ってくるまでだった。

廊下から階段に足を踏み入れたスネイプは、不機嫌を具現化したような姿をしていた。


(しまった地雷踏んだ!)


ルシウスに会いに行ったところから予想しておくべきだった。

ルシウスがスネイプで遊ぶ可能性があることを――そして、遊ばれたスネイプがどういう状態になるのかを。



『これはえっとその事故でして、わざとではないんです!』

『いわゆる例外ってやつだと思うんです!』

『そもそも1人で校長室に行けと言ったのはスネイプ先生ですし!?』



足が階段に捕らわれているため逃げ出すこともできず、ユイはひたすら言い訳を並べた。

何を言ってもスネイプからの返答はなく、カツカツという音と共に黒いオーラが迫ってくる。

目の前まで来た不機嫌の化身は、力任せにユイの両腕を引っ張った。



『あ、ありがとうございま……す?』



ユイを引っ張り上げたスネイプは、腕をつかんだままジロジロと両手を見た。

おかげでユイは万歳の格好のまま身動きが取れない。


(い、痛い……)


「Ms.モチヅキ」

『はいすみません減点でも罰則でも何でも受けます!』

「ではアクセサリー類の着用を一切禁じる」

『うぇ!?』

「何か問題でも?」

『いえ……』


(何の話をしてきたんだろ……)


まさか指輪の話だとは思わないユイは、まっさきに首飾りのことを考えた。

解放させた手は無意識に胸元に伸びる。

それをスネイプが見逃すはずがなかった。



「何かつけているな?出せ」

『なななにも!』

「では見せろ」

『ちょ、襟!やめて下さいセクハラですセクハラ!』

「12歳相手にセクハラも何もあるか」

『児童相手の方が問題だと――痛たたたごめんなさい冗談です!』



襟をつかみ上げたスネイプは、首筋に金の鎖を見つけて舌打ちをした。

指で掬い、引っ張り出そうとする。

ユイは慌ててその手を押さえた。



『ただのペンダントです!』

「既に嘘をついた者の言い分が信用できるとでも?」

『ほ、ほら!』



正気とは思えないスネイプがこれ以上の暴挙に出る前に、ユイは首飾りをさっと見せた。

丸く金色のフォルムを確認したスネイプから、再び舌打ちが降ってくる。

思わず後退りしたユイの足が消える階段の中に戻り、舌打ちはため息へと変わった。


(あれ?それは何だって聞かないの……?)


ますます厳しく追及されることを覚悟していたユイは、拍子抜けしてポカンと口を開けた。



「とにかく禁止だ」

『は、はい』

「戻るぞ」

『はいありがとうございます……と言いたいところなんですが痛いですもう少し優しく!』



またしても力任せに引っ張ったスネイプは、そのままずんずん進んだ。

ユイが痛みを訴えても力が弱まる気配はない。

が、あの指がさっき首に……と考えたら痛みどころではなくなった。


真相は闇の中のまま。

寮につく頃にはユイの手も頭も真っ白になっていた。





Fin.
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