番外編

□2-20.5 [IF]貴族の戯れ
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ハグリッドの小屋を後にしたルシウスは、坂道の先にスネイプの姿を見つけて口角を上げた。

育ちすぎたコウモリよろしく、城へ続く回廊の壁に張り付き影と同化している。

ファッジに先に行くよう促し、不機嫌な男が話しかける隙を作ると、スネイプはファッジ達の姿が遠ざかるのを待って暗闇から出てきた。



「理事自ら出向くとはご苦労なことで。いったい何事ですかな?」

「理事として必要な仕事をしたまでのことだ」

「何か他にも理由があるのでは?」

「他……例えば?」



含みのある視線が交わされた。

スネイプは何も答えない。

やってきた夜に、森の木々がざわめく音だけが通り過ぎていく。

お互いを探り合う時間はしばらく続き、ルシウスが先に動いた。

意味深長な微笑を残し、歩き始める。

スネイプがそれに続いた。



「何かご存知なようですな――いま学校で起こっていることについて」

「ドラコから聞いている範囲でなら。ポッターが継承者と疑われているようだな」

「それからモチヅキも」

「……ほう」



わずかな間が、意外だったことを示していた。

抜け目のない表情からは何を考えているのか読み取れない。

しいていえば、おもしろがっているように見える。



「そうそう、あの子は私が贈ったクリスマスプレゼントについて君に何か話したか?」

「……何も」



短い返答に不快感が凝縮されていた。

ルシウスの顔に勝ち誇った笑みを浮かぶ。



「気になるか?」

「モチヅキが誰に何をもらおうと我輩の知るところではない。談話室を赤と金に染め上げるようなものでなければの話だが――」

「そんな趣味の悪いものを贈ってよこす輩がいるのか。セブルス、君の囲いが足りないのではないか?」

「囲ったところでその中にじっとしているような子ではない」

「なるほど」



それもそうだと頷きながらうす暗い校庭を横切って門へ向かう。

先に出たファッジが律儀に待っている。

戻って構わないと手で示したルシウスは、流れでスネイプに手の甲を見せた。



「指輪を贈った」



戻ってきたことはあえて言わなかった。

さらに手をかざすことでまるで同じもであるかのように見せかける。

するとスネイプはルシウスの期待通りの反応を示した。



「何のつもりだ」

「ドラコの母親になりたいらしいのでね」

「ご自分が何を言っているかわかっているのかルシウス、戯れにしては少々度が過ぎているであろう息子と同い年の小娘を妾になど」

「私は彼女の希望に沿う提案をしてみただけだ」

「なぜそこまでモチヅキに執着する」

「それを君が言うか?」



ルシウスはニヤリとし、愉快そうに喉を鳴らした。



「君も贈ってみればどうだ?セブルス。あれは美人になる。君に懐いているうちに唾をつけておけば――」

「あなたと一緒にしないで頂きたい」

「しかし、使えるのは確かだ。本当に何も知らないのかね?」



アイスブルーの目が細まり、雰囲気がガラリと変化した。

スネイプは「何も」とだけ答え、無言と無表情を貫いた。

先ほど放たれたものと同じ言葉が、まるで違うもののように聞こえる。

ルシウスはそのことに満足し、ふっと鼻から息を漏らした。



「私がけしかけるまでもなかったようだ。自分の物にする気満々ではないか」

「そのようなつもりはない」

「何をためらう必要があるというのだ。情が沸いているというのか?君が?あんなどこの馬の骨かもわからぬような小娘に?」

「……スリザリンである以上、学生のうちは我輩の生徒だというだけです」

「ふむ」



門を出たルシウスは、これ見よがしに指輪をいじり、夜の闇に消えた。


――では卒業後私が貰い受けても構わないな?


放たれることがなかった言葉が、風の唸りとなってスネイプの耳に届いた。



***
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