番外編
□[後日談]リセット
5ページ/10ページ
ユイは改めて謝罪とお礼を述べてから、積極的に絡んでいくようにした。
といっても、仕事もあるし、校長室への出入りができなくなってしまったため、食事前後の移動時間を狙うしかない。
最初のうちは、返事をするどころか、顔を向けてくれることすらなかった。
それでも邪魔さえしなければ歩きながら話を聞いてくれた。
ユイはさくさく歩くスネイプを追い掛け回し、尊敬する点を挙げたり、スネイプが好きそうな話題を選んで話しかけたりし続けた。
周囲の人は喧嘩していた2人が仲直りをしたとしか思っていないだろう。
ユイがスネイプと話していても、視線を集めることはなくなった。
雪解けが始まる頃には、初期のドラコがそうであったように、誰がどう見ても贔屓をされているとわかるかわいがられ方をする程度にまでは関係が改善した。
『私が魔法薬学の教授になりたいって思ったのは、憧れのスネイプ先生と同じことをしたかったからなんです』
「ずいぶん不純な動機ですな」
『なんとでも言ってください。あ、でも、動機が不純だからっていう理由での不採用は困ります。ちゃんと魔法薬自体も好きなので大丈夫です!』
「君の場合は別の面が大丈夫でないであろう」
『そ、その点は目下修行中です……。なので、ちゃんと一人前の教授になるまで面倒を見てくださいね』
「断る。何十年かかるかわかったものではない」
『何十年かかっても、です!』
つい大きな声が出てしまい、スネイプが振り返った。
「なぜそこまで意地になるのだ。仕事を選ばなければ活躍できるであろう。例えば――マグル学の教授などはいかがですかな?」
『へ?』
「あの男が目障りなのは我輩も同じだ。君が取って代わってくれれば都合がいい」
『いやいやいや!いいですよそこまでしてくれなくて!私がなりたいのは魔法薬学の教授ですし!学期途中に変更をしたら生徒が混乱しますし!目障りでもないですし!』
「君がそうやって庇うからつけあがるのだ。迷惑なのであればあいまいな態度を取らずに徹底的に排除したまえ」
『いや、迷惑というわけでは……悪いなとは思いますけど……』
ユイはぼそぼそと言いながら、そうか普通ははっきりさせて次へ進むのかと他人事のように考えた。
自分も含め、ずいぶんと偏った考えの人間が集まったものだ。
(教授だって排除しなかったくせに)
一方的に気持ちを押し付けていた頃に「迷惑ではない」とスネイプに言ってもらえた時のことを思い出し、ユイは無意識に微笑んだ。
いぶかしむスネイプに『クィレル先生の気持ちもわかるからいいんです』と告げる。と、スネイプは眉間にしわを寄せた。
「ストーカーをしたことがあるのか」
『そうですねー、かれこれ7年くらいは不毛な恋をしていました』
「学業以外は無駄な時間を過ごしていたようですな」
『想いが届きっこないってわかっていても愛するのをやめられないことって、あるじゃないですか』
「……」
『私はそれが無駄なことだとは思いません』
「……くだらん」
スネイプの歩調が早まったため、潮時だと思ったユイはその場に留まった。
話をしてくれるようになったとはいえ、距離感は非常に難しく、ちょっとでも踏み込みすぎると、とたんに大きく拒絶される。
一度はなくなった心の壁が、再び大きなものとしてユイの前に立ちはだかっていた。
***