番外編
□[後日談]リセット
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ルシウスやマクゴナガルと話し合い、今回の件は他言無用とし、秘密裏に解決策を探るという結論に達した。
それでもスネイプとユイの様子を見れば関係の変化に気づく人はいて、クリスマス休暇が明けると、噂は水面下でじわじわと広がっていった。
ユイは大丈夫かと声をかけられるようになり、スネイプは腫れ物のように扱われた。
ユイは呪いを調べる一方で、様々な解毒剤を片っ端から作っては試した。
警戒心の強いスネイプに薬を盛るのは苦労したが、厨房で働くしもべ妖精が協力してくれた。
口にする前に気づかれたり副作用だけが発症したりという日々が続き、ついにスネイプが厨房に現れた。
鉢合わせになったユイは、“洋服”を恐れるしもべ妖精たちと一緒に、この世の終わりに近いものを感じて縮こまった。
「なんのつもりだ?」
『す、スネイプ先生の目も欺けるような薬を作りたいなと……』
「ほう?どこにも工夫のあとが見られない、これでか」
スネイプは鼻を鳴らし、没収した薬瓶を投げ捨てた。
「慎重さが仇になったな、ユイ。ときには思いきりも必要なのだと覚えておきたまえ。相手に殺意を抱いている場合は特にだ」
『え?いま殺意って言いました?』
「我輩が気づかなければ、次の段階に移るつもりでいたのであろう」
『ちょっと待ってください。次って何ですか』
「毒薬」
『私がそんなことするわけないじゃないですか!』
「ああ、我輩も夢にも思いませんでしたぞ。良くしてやった教え子に命を狙われる日が来ようとは――」
「いい加減にしろ、スネイプ」
どこからともなく現れたクィレルは、ユイをスネイプから引き離し、自分の体を間に割り込ませた。
スネイプのこめかみがぴくりと動いた。
「貴様も共犯か?クィレル。では2人まとめて――」
『違います!クィレル先生は関係ありません。全部私が1人でやりました!』
「ほう。ではなぜここに現れた。偶然通りかかるような場所ではあるまい」
「後をつけた」
「それこそなんのために」
「彼女のために」
クィレルはスネイプを睨みつけたまま、顎でユイを指した。
続けてスネイプの胸倉を掴んだため、ユイは焦ってその腕を引いた。
『駄目です教授は今疑心悪鬼モードなんですから!そんなことしたら本当に共犯にされちゃいます!』
「構いません。あなたがここを追い出されるなら、私がここに残る意味もない」
『授業はどうするんですか。そんな責任感のない人じゃないですよね?今回は全面的に私が悪いんですから――』
「悪いのはあなたを忘れておきながら、記憶を取り戻そうとする行動までも咎め解雇しようとしているこの男だ!」
「我輩の記憶は正常だ。貴様がかつて賢者の石を盗もうとして死にかけたことも、ユイに一方的に付きまとっていることも存じ上げている」
クィレルの手を払ったスネイプが襟元を正し、馬鹿にするように鼻を鳴らした。
闇色の瞳が、クィレルの表情、今にも振り上げられそうな握りこぶし、その腕を掴むユイ、と移動をしていく。
心配そうなユイの顔にたどり着いたあと、スネイプは「ああ、なるほど」と口元をゆがめた。
「錯乱の呪文をかけユイをけしかけ、絶好のタイミングで庇いに出ることで自分の株を上げようという姑息な手か」
「記憶とともに判断力まで失ったかスネイプ。その程度の小細工でぶれるような人ならとっくに私のものになっている」
「哀れなものだな。自らの進退をかけるに値するとはとても思えんが――」
チラリとユイを見たスネイプは、「手に入れたくなる気持ちもわからないでもない」と淡々と続けた。
これにはユイだけではなくクィレルも目を丸くした。
「態度はさておき、管理人見習いにしておくにはもったいない才能の持ち主だ」
『そそそ、それ本当ですか!?』
「そうでなければ足りている職に採用せん。今回はその優秀な頭脳に免じて馬鹿げた実験だという話を信じてやる。次はない」
『あ、ありがとうございます!』
「……なに喜んでいるんですか」
呆れ気味にユイを見たクィレルは、去ろうとするスネイプを呼び止め、見せ付けるようにユイを抱き寄せた。
『うぇえ!?』という妙な悲鳴をあげてじたばたしている姿を見て、スネイプが眉根を寄せる。
一瞬手が杖に伸びたが、構えるまでは至らず、「離せ」と低い声で警告するに留まった。
中途半端な反応にクィレルは舌打ちした。
「いっそ無関心になればいいものを」
「一応我輩の教え子であり友人の娘なのでね。目の前で襲われているところを無視するわけにはいくまい」
「同意があれば、私が手に入れても構わないということだな?」
「可能ならば、好きにしたまえ。教員同士の恋愛を禁止する規則はない。ただし、今後また我輩を巻き込むようなことがあれば、即刻解雇する」
「――お前はどこまで自分勝手なんだ!」
スネイプは出ていき、閉めきられた厨房にクィレルの声が響いた。
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