第一幕
□25.ノクターン横丁
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広い通りの両脇に店が並んでいたダイアゴン横丁とは違い、ノクターン横丁は狭い道が縦に横にと入り組んでいた。
自然と日陰になる部分が多くなり、今日は天気がいいというのに、どことなく薄暗い雰囲気が漂っている。
道行く人の服やショーウィンドウの中身から鮮やかさが消えたことも影響していそうだ。
『こっちはあんまり子どもがいないんだね』
店先でオリオンとヴァルブルガの用事が終わるのを待っているとき、エメリーが周囲を見回しながら言った。
『さっきまで迷子になりそうなほど混んでたのが嘘みたい』
「こっちには学用品は置いていないですからね」
レギュラスは遠まわしに手を離すよう言われているのだろうかと深読みして身を強張らせた。
「……気になります?」
『うん?あ、そういえばレギュラスの手はリリーと違って硬くてでこぼこしてるね』
「え……っと、しょっちゅう杖や箒を握っているからだと思います」
予想の斜め上のことを言われ、レギュラスの反応は少し遅れた。
数回まばたきをしたあとで、無意識に動いてしまっていた手の平を見せる。
そしてすぐに、見せるんじゃなかったと後悔した。
ペンだこはまだいいとして、指の付け根の皮が厚くなっていたり、ところどころ皮がむけていたりするのは手入れを怠っている証拠だと恥ずかしくなる。
だから、「レギュラスじゃないか」と声がかかったときは助かったと思った。
声の主には見覚えがなかったが、レギュラスはこれ幸いと手を下げ、近くの階段を上がってきた初老の夫婦に丁寧な挨拶を返した。
「ご両親は一緒じゃないのかな?」
「父と母は店の中です」
「そうか。では私も――おお、ブラックさん、奇遇ですね」
ちょうど店から出てきた2人に、男性がぺこぺこと頭を下げる。
連れ添っていた女性もすかさずヴァルブルガの服装を褒め始め、あっという間に道端が社交の場と化した。
『ブラック家って本当に王族みたいなんだね』
「もちろんそうよ、お嬢さん。ねえ奥さま」
エメリーがレギュラスにこっそり言った言葉を女性が拾い、ヴァルブルガが気をよくしたことで、社交辞令は井戸端会議へと発展する。
これは長くなるぞ、と思ったのはレギュラスだけではなかった。
どこからか咳払いが聞こえたかと思ったら、オリオンが少し離れたところから小さく手招きしていた。
「話が終わるのを待っていたら夜になってしまう」
2人を呼んだオリオンは、角を曲がってから肩をすくめた。
「先に店に行っているとしよう。確か魔法生物を見たいんだったな?」
「はい。お願いします」
『お、お願いします!』
「はは、そんなに緊張する必要はない。それに、私もちょうど顔を出したかったところだ」
オリオンはどこかうきうきした様子で、さらに2つほど角を曲がった。
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