不死鳥の騎士団
□5-11 開心術
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計画は上手くいった。
しかし、スネイプは、大きな誤算をしていた。
ユイに出入りを禁じたことで、ユイは調合や質問に使っていた時間を別のことに使うようになる。
地下牢教室とは違い、談話室や図書館には人が沢山いる。
寮生に囲まれて勉強を教えている姿や、セドリックと仲良く図書館から出てきて、人目を避けるように中庭へ行く姿を見なくてはいけなくなった。
だからどうしたという話しなのだが、どうもイライラして仕方がない。
長い1週間が経ち、しばらくぶりにスネイプの研究室の部屋のドアがノックされる日が来た。
壁に並んだガラス瓶も、材料がぎっしり入った薬戸棚も、先週のままだ。
スネイプは準備途中だった憂いの篩を机の上に置き、ユイを招き入れた。
ろうそくの炎をランプに移して部屋の中に明るい空間を作り、そこにあるイスに座るよう黙って指差す。
ユイは緊張した面持ちで座り、まっすぐにスネイプを見た。
『よろしくお願いします』
「教えを請う立場である以上、閉心術、開心術とは何か、当然分かっているのでしょうな?」
表情を見れば明らかだったが、スネイプは改めて確認をした。
闇の印をつけられた以上、ユイが闇の帝王の前に出なくてはならない状況は、いつきてもおかしくない。
予知夢の能力が知られているとは考えにくいが、ヴォルデモートはユイに執着しているのも事実だ。
心を読み、操ることに長けている相手に丸腰で挑むのは、あまりにも危険だ。
ユイが頷くのを確認し、杖を取り出す。
記憶の糸をいくつか抜き振り返ると、ユイはじっと水盆を見つめていた。
質問を許さない威圧感を放ち、スネイプは杖を構えてユイと向き合った。
「立て、ユイ。杖を取れ」
『はい!』
「訓練するに当たって、我輩は君の心に押し入る――こじ開ける記憶や感情は選べん。ゆえに、後からの文句は受けつけぬ」
『え?選べないんですか?』
「嫌ならやめたまえ」
『やめません。でも……』
考え込むように水盆を見ていたユイは、スネイプを窺い見た。
『少し、記憶を抜いてもいいですか?』
「見られたくない記憶を引き抜いていたのでは、訓練にならん」
『それはそうなんですが……』
「我輩に見られてはまずい隠し事でもあるのかね」
リーマスやセドリックの件があるだけに、スネイプの語気は強くなった。
自分に隠れてコソコソと何かをしていると考えるだけで、腹立たしい。
『それはまあ……ほら、一応女の子ですし、プライバシーってもんが……』
「安心したまえ。我輩は君の私生活に関しては一切興味がない」
『教授はそうかもしれませんが!私が気にするんです!セクハラで訴えますよ!?』
「……セクハラ?」
『もしくはパワハラです!嫌がる女の子を前に、お風呂の記憶をさらけ出せとおっしゃる!』
「誰もそんなことは言っていない!」
つい大声を上げて机を叩いてしまい、水盆の水がはねた。
ここで折れるのは癪だが、いつまでも不毛な論争を続けていても仕方がない。
スネイプは自分の水盆を下げ、代わりに別の容器を持ってきた。