アズカバンの囚人
□3-27.5 日常という名の奇跡
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「急に呼び出して悪かったね。君に話しておきたいことがあるんだ」
ファッジとの話が終わると、リーマスはその足でスネイプを部屋へ呼びつけた。
「シリウスを救ってくれてありがとう。狼人間でもあり、シリウスの旧友でもある私の証言では大臣は納得しなかっただろう」
「勘違いするな。我輩は断じて貴様らのために――」
「わかってるよ。ユイの為だろ?……君は変わったね」
眉間にしわをよせるスネイプを見て、「気づいていないのかい?」とリーマスは肩をすくめた。
「昔の君は嫌なやつだった」
「貴様もな」
「まあ否定はしないよ。今の君は……なんていうか、人間味が出てきた」
「……つまり我輩は人間ではないと?人狼にそのようなことを言われる日がこようとはな」
「そういう意味じゃない。話の腰を折るなセブルス」
リーマスはしばらくの間、水魔が入った水槽をコツコツと叩いた。
そして、振り返ると「君の言うとおりだった」と話した。
「辞職、しようと思う」
「当然だな。今までその考えに至らなかったことのほうが我輩は不思議でならん」
「でも、ユイに止められると思うんだよね」
「……のろけ話か?話す相手を間違えているな」
「待って。聞いてくれセブルス。あの子は、未来を知る能力があるのかい?」
スネイプは何も言わなかったが、それで十分リーマスにとっては答えだった。
「やっぱりね……おかしいと思ったんだ」
用意周到すぎる行動も、叫びの屋敷での発言も。
すべて、未来を知っていたからと言われれば納得が行く。
「セブルス、あの子は何者なんだ?」
「貴様に教えてやる義理はない」
そう言うスネイプ自身も、わからないことのほうが多い。
一言で予知夢と言っても、どの程度先のことまで、どの程度鮮明に見えるのか――あるいは、どこまで正確性に優れているのかなどはまったくわからない。
「僕が辞めては困る理由があるみたいなんだ」
「気になるなら自分で聞けばよかろう」
「教えてくれるつもりがあるなら、とっくに言ってくれているよ」
リーマスは水槽を指ではじき、乾いた笑いをした。
部屋の中心にあるソファに腰を下ろし、スネイプにも座るよう促す。
スネイプはその様子を立ったまま見下ろした。
「ユイがパトローナスを作れるのを知っているかい?」
「ああ……」
「大人でも出すのが難しいような、立派なパトローナスだ。――あそこまで見事なパトローナスを創り出す元がなんなのか、君は知ってる?」
「貴様は知っていると言うのかルーピン」
「まあね」
知りたいだろ?とリーマスが含み笑いをすると、スネイプは頬をひくつかせ、舌打ちしながらもソファに乱暴に腰を下ろした。