アズカバンの囚人

□3-27.5 日常という名の奇跡
3ページ/7ページ

スネイプは、今から捜せるはずがないと自分に言い聞かせ、校長室へ行きシリウス・ブラックを捕らえたことを伝えた。

ファッジが到着し、医務室でひと悶着起こした後に、ロンを除いた全員が話をすることになる。

ダンブルドア、ハリー、ハーマイオニー、シリウス、スネイプ、ファッジの順で並び、校長室へ移動する途中、最初にユイ達の姿を見つけたのはシリウスだった。

階段の踊り場付近まで上った後、何かに反応して振り返り、一気に階段を下りた。







ファッジが止めるのを無視し、シリウスはユイを抱えるリーマスに駆け寄った。

抱きかかえられたユイの服は、リーマスに負けないほどボロボロだった。

ローブは跡形もなくずたずたになっており、切り裂かれたブラウスから傷だらけの腕が見え、ネクタイの解けた胸元は血に染まっている。



「リーマス、」

「貴様まさか――」



2人の頭の中を、最悪のシナリオがよぎる。

傷口を確かめるように顔を近づけるシリウスに、リーマスは「咬んでないよ」とやつれた顔で言った。



「大丈夫。細かい傷はあるけど、大半は私の血だ」

「しかしリーマス、どうやって……」



シリウスはファッジの眼を気にしながらリーマスの耳元で「アニメーガスか?」と囁いた。



「まあそんなところだよ。あれは君が教えたのかい?」

「ああ……こんな形で役に立つとは思わなかったが……」

「なんの話だ」

「お前には関係ねぇよスニベルス」

「まだ自分の立場が分かっていないようだなブラック?我輩の一言で貴様の運命は決まるのだぞ」

「ユイの想いを踏みにじるつもりかいセブルス?」

「無駄だリーマス。こいつには人の心なんて理解できない」



睨みあう3人の元へ、ゆっくりと階段を降りてきたファッジが追いつく。

ハリー達はこちらの様子には気づかず、先に校長室へ向かったようだ。

ファッジは、リーマスとユイを見て眉をひそめた。



「君も関係者か?」

「こやつはブラックの旧友です閣下」

「何!?」

「リーマスを巻き込むなスニベルス」

「シリウス、いいんだ。私にも話す義務がある」



リーマスは落ち着いた口調でファッジに軽い自己紹介をし、ユイを先に医務室に連れて行っていいか尋ねた。

ボロボロの2人を見たファッジは、頷くしかなかった。



「しかし、君のほうこそ治療が必要なのでは?」

「この子が手当てしてくれたので大丈夫です。すぐに伺います」

「わかった……では校長室で。行くぞブラック」



それぞれが別々の方向に歩き出してすぐにリーマスはスネイプに声をかけた。

スネイプは振り返らなかったが、それでもリーマスは続けた。



「セブルス、ユイのためにも、真実を語ってほしい」

「……貴様の指図は受けん」



事情聴取は一人ひとり別室に呼ばれて行われたため、誰が何を話したはダンブルドアとファッジ以外は知らない。

だが、事情聴取を経て、シリウス・ブラックが釈放されることになったという事実が、全てを物語っていた。



***
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ