アズカバンの囚人
□3-27.5 日常という名の奇跡
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スネイプは、今から捜せるはずがないと自分に言い聞かせ、校長室へ行きシリウス・ブラックを捕らえたことを伝えた。
ファッジが到着し、医務室でひと悶着起こした後に、ロンを除いた全員が話をすることになる。
ダンブルドア、ハリー、ハーマイオニー、シリウス、スネイプ、ファッジの順で並び、校長室へ移動する途中、最初にユイ達の姿を見つけたのはシリウスだった。
階段の踊り場付近まで上った後、何かに反応して振り返り、一気に階段を下りた。
*
ファッジが止めるのを無視し、シリウスはユイを抱えるリーマスに駆け寄った。
抱きかかえられたユイの服は、リーマスに負けないほどボロボロだった。
ローブは跡形もなくずたずたになっており、切り裂かれたブラウスから傷だらけの腕が見え、ネクタイの解けた胸元は血に染まっている。
「リーマス、」
「貴様まさか――」
2人の頭の中を、最悪のシナリオがよぎる。
傷口を確かめるように顔を近づけるシリウスに、リーマスは「咬んでないよ」とやつれた顔で言った。
「大丈夫。細かい傷はあるけど、大半は私の血だ」
「しかしリーマス、どうやって……」
シリウスはファッジの眼を気にしながらリーマスの耳元で「アニメーガスか?」と囁いた。
「まあそんなところだよ。あれは君が教えたのかい?」
「ああ……こんな形で役に立つとは思わなかったが……」
「なんの話だ」
「お前には関係ねぇよスニベルス」
「まだ自分の立場が分かっていないようだなブラック?我輩の一言で貴様の運命は決まるのだぞ」
「ユイの想いを踏みにじるつもりかいセブルス?」
「無駄だリーマス。こいつには人の心なんて理解できない」
睨みあう3人の元へ、ゆっくりと階段を降りてきたファッジが追いつく。
ハリー達はこちらの様子には気づかず、先に校長室へ向かったようだ。
ファッジは、リーマスとユイを見て眉をひそめた。
「君も関係者か?」
「こやつはブラックの旧友です閣下」
「何!?」
「リーマスを巻き込むなスニベルス」
「シリウス、いいんだ。私にも話す義務がある」
リーマスは落ち着いた口調でファッジに軽い自己紹介をし、ユイを先に医務室に連れて行っていいか尋ねた。
ボロボロの2人を見たファッジは、頷くしかなかった。
「しかし、君のほうこそ治療が必要なのでは?」
「この子が手当てしてくれたので大丈夫です。すぐに伺います」
「わかった……では校長室で。行くぞブラック」
それぞれが別々の方向に歩き出してすぐにリーマスはスネイプに声をかけた。
スネイプは振り返らなかったが、それでもリーマスは続けた。
「セブルス、ユイのためにも、真実を語ってほしい」
「……貴様の指図は受けん」
事情聴取は一人ひとり別室に呼ばれて行われたため、誰が何を話したはダンブルドアとファッジ以外は知らない。
だが、事情聴取を経て、シリウス・ブラックが釈放されることになったという事実が、全てを物語っていた。
***