アズカバンの囚人

□3-27.5 日常という名の奇跡
2ページ/7ページ


「スネイプ、ユイとリーマスはどうした」

「貴様には関係のないことだ。さっさと歩け」

「っざけんな!俺のユイに何かあったらどうするんだ!捜しに行かせろ!」

「貴様のほうこそふざけたことをぬかすなブラック。自分の立場がわかっていないのか?ん?今からディメンターを呼び戻してもいいのだぞ」



ディメンターは元の持ち場に戻り、適当に薬をかけられたシリウスは見事に復活を遂げた。

そして、姿の見えないユイのことをひどく心配した。

狼化して理性を失ったリーマスがどれだけ凶暴で危険なのか、シリウスは身を持って知っている。


(無事でいてくれ……っ)


狼人間は、優先的に人を攻撃する。

だから、ユイがアニメーガスになれば危険度は減る。

ユイが猫に変身できることも、十分な戦闘能力を持っていることもシリウスは知っていたが、それでも先ほどの状況を見る限りでは安全だとは言い切れない。



「くそっ……」

「フン、貴様が今この場でディメンターのキスを受けるというのであれば、それを見届けた後すぐに我輩が捜しに行ってやろう」



城へ戻りながら、スネイプはこれから何をするべきかを考えていた。

ユイを捜しに行かなくてはいけないのはわかっていたが、ブラックに3人を任せていくわけにもいかない。

薬のおかげで回復してはいるため、彼らだけで城までいけそうだが、なんせ殺人の疑いがかかった脱獄囚なのだ。

たちまちホグワーツはパニックに陥るだろう。



「心配いらないよシリウスおじさん、ユイは強いし賢いから!」

「ハリー、しかし君はリーマスの――狼人間のことをよく分かっていない」

「知ってるよ!授業でやったんだ。ユイもその授業を受けてるから大丈夫だって!」



スキップしながらブラックの腕にまとわりつくポッターが目障りで失神呪文をかければ、ブラックは「てめぇ」とスネイプの胸倉を掴んできた。



「触るなブラック。我輩は馬鹿の相手をしているほど暇ではない」

「んだと!?」

「大人しく城へ行くか、今からここでディメンターを呼ばれるか、どちらがいいか選べ」



幸運の液体を飲んだハリーが捜しに行こうとしないのであれば、それはきっと捜しに行かなくても大丈夫だということなのだ。

そう思わなければ、スネイプ自身気が気ではない。


(どちらにせよ城に行けば貴様の運命は終わりだ)


ルーピンが戻ってくる頃までには全ては片がついているだろう。

そう思ったスネイプの心に、突如としてユイの顔が浮かんだ。


手はまだあのときの温もりを覚えている。

今ここでブラックを売れば、あの温もりは二度と手に入らないような気がした。


(だからなんだというんだ)


スネイプは一度シリウスに殺されかけている。

学生時代の恨みを晴らすなら今だ。

医務室に4人を連れて行った後、玄関ホールまできたスネイプは、空に浮かぶ満月を見て、中に引き返した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ