アズカバンの囚人
□3-27.5 日常という名の奇跡
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「スネイプ、ユイとリーマスはどうした」
「貴様には関係のないことだ。さっさと歩け」
「っざけんな!俺のユイに何かあったらどうするんだ!捜しに行かせろ!」
「貴様のほうこそふざけたことをぬかすなブラック。自分の立場がわかっていないのか?ん?今からディメンターを呼び戻してもいいのだぞ」
ディメンターは元の持ち場に戻り、適当に薬をかけられたシリウスは見事に復活を遂げた。
そして、姿の見えないユイのことをひどく心配した。
狼化して理性を失ったリーマスがどれだけ凶暴で危険なのか、シリウスは身を持って知っている。
(無事でいてくれ……っ)
狼人間は、優先的に人を攻撃する。
だから、ユイがアニメーガスになれば危険度は減る。
ユイが猫に変身できることも、十分な戦闘能力を持っていることもシリウスは知っていたが、それでも先ほどの状況を見る限りでは安全だとは言い切れない。
「くそっ……」
「フン、貴様が今この場でディメンターのキスを受けるというのであれば、それを見届けた後すぐに我輩が捜しに行ってやろう」
城へ戻りながら、スネイプはこれから何をするべきかを考えていた。
ユイを捜しに行かなくてはいけないのはわかっていたが、ブラックに3人を任せていくわけにもいかない。
薬のおかげで回復してはいるため、彼らだけで城までいけそうだが、なんせ殺人の疑いがかかった脱獄囚なのだ。
たちまちホグワーツはパニックに陥るだろう。
「心配いらないよシリウスおじさん、ユイは強いし賢いから!」
「ハリー、しかし君はリーマスの――狼人間のことをよく分かっていない」
「知ってるよ!授業でやったんだ。ユイもその授業を受けてるから大丈夫だって!」
スキップしながらブラックの腕にまとわりつくポッターが目障りで失神呪文をかければ、ブラックは「てめぇ」とスネイプの胸倉を掴んできた。
「触るなブラック。我輩は馬鹿の相手をしているほど暇ではない」
「んだと!?」
「大人しく城へ行くか、今からここでディメンターを呼ばれるか、どちらがいいか選べ」
幸運の液体を飲んだハリーが捜しに行こうとしないのであれば、それはきっと捜しに行かなくても大丈夫だということなのだ。
そう思わなければ、スネイプ自身気が気ではない。
(どちらにせよ城に行けば貴様の運命は終わりだ)
ルーピンが戻ってくる頃までには全ては片がついているだろう。
そう思ったスネイプの心に、突如としてユイの顔が浮かんだ。
手はまだあのときの温もりを覚えている。
今ここでブラックを売れば、あの温もりは二度と手に入らないような気がした。
(だからなんだというんだ)
スネイプは一度シリウスに殺されかけている。
学生時代の恨みを晴らすなら今だ。
医務室に4人を連れて行った後、玄関ホールまできたスネイプは、空に浮かぶ満月を見て、中に引き返した。