アズカバンの囚人
□3-16 [IF]ブラッククリスマス
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ユイが半ば投げやり状態でそのまま埋まっていると、不機嫌な顔をしたスネイプに掘り起こされる。
「そのまま冬眠するつもりか」
『ああ、それいいですね……でもそんな暇はないので遠慮しておきます』
「時間が足りないと?」
『ええ、まあそんなところです』
なんでそんなことを聞くのだろうと思いながらも、話をずらせるならなんでもいいやとユイはやりたいことがありすぎて1日24時間では足りないのだと熱心に語った。
「……」
『……?』
急にスネイプが黙り込む。
何か機嫌を損ねることでも言ってしまったのだろうかと、ユイは自分の発言を反芻する。
(調合じゃ怒らないだろうし、OWLで全部合格したいっていう理由もおかしくないし、本を読むのもお菓子を食べるのも……)
『スネイプ先生?』
「……これを」
『くれるんですか?』
スネイプの手には何の飾り気もない小さな箱が乗せられていた。
差し出されるまま受け取り、慎重に蓋をあける。
『これ……』
「タイムターナーだ」
(やっぱり……)
箱の中には、小さな砂時計が入っていた。
砂時計は中央に刺さった細い棒で金色の輪に固定され、横についたネジでまわせるようになっている。
まさに、ハーマイオニーが首からさげていたものと同じだった。
『お気持ちは嬉しいですが、受け取れません』
「これが何か知っているのか?」
『はい……』
ハーマイオニーが持っているのを知っていると言うわけにもいかず、ユイは本で読んだことがあるとごまかした。
「モチヅキのセリフとは思えませんな。逆転時計さえあれば今の2倍、3倍の時間を使うことができるのですぞ?過労で倒れることも気分転換でこんな場所へくることも――」
『違うんです』
「何がだね」
『やり直しがきくと思ったら、1つ1つに真剣に取り組めなくなると思うんです』
「これは人生をやり直すための道具ではない」
『わかってます。でも、やっぱり期待はしちゃうと思います』
自分が2人いればと思うことはあるが、そんなことを望んでいたのではきりがない。
『それに、教授からはすでにプレゼントもらってますからっ』
右の手首をまくって見せるユイに、スネイプは眉をひそめた。
最近ユイは気づいた。
スネイプは照れ隠しのときも眉間に皺を寄せる癖がある。
『そういえば、スネイプ先生はどうしてここに?』
「……関係のないことだ」
『しかもそんな薄着で……風邪引きますよ』
スネイプは普段地下牢教室でみる格好と変わりなかった。
いくら寒い地下に慣れているからと言って、外まで出てこれるほどではない。
「そう思うならごたくを並べていないで箒を出すことだ。今すぐ」
『もしかして、私を追いかけてきてくれたんですか?』
「……手を煩わせるなと言ったであろう」
『あ、先生待って』
「待たん。早――ぐっ」
ぷいっと背を向けてホグワーツへ戻ろうとするスネイプにユイはすばやくマフラーをかけた。
身長が足りないところから投げるようにしてかけたため、スネイプの首が絞まり、バランスを崩したスネイプがその場に膝をつく。
ユイは、身長差がなくなったスネイプに漆黒の耳当てをつけた。
「――っ貴様、何を……」
『貸しますっ』
咳き込みながら睨みつけるスネイプにマフラーをぐるぐると巻きつけ、ユイはいつも以上に全身真っ黒になったスネイプに満面の笑みを向け、箒にまたがりスネイプとともに地下牢教室へ戻った。
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