アズカバンの囚人

□3-5.5 変身術
4ページ/5ページ


「あの囲まれてる子ってセブルスの寮の子だよね?」



ただでさえ騒がしい大広間に嫌気が差していたスネイプは、リーマスに話しかけられた上、話題の中心がユイであることを知らされさらに不快感を高めた。


(また何か余計なことをしでかしたのか)


「ユイだっけ?この前会ったときも思ったけど、スリザリンっぽくないよね」


(外面はそうであろうな)


内面は相当スリザリンたる素質を持っている。

目的のためならば〜が口癖になりつつあるユイの狡猾さ(という表現があっているかはわからないが)はスネイプですら計り知れないものがあった。

返事をしないスネイプを気にすることもなく、リーマスはハニートーストをかじりながら話しかけ続けた。



「あの様子だとみんなに優しいみたいだし勤勉だってうわさだ。ハッフルパフでもおかしくない」


(勤勉になる方向が偏りすぎだ)


「それに少し話しただけで利口なんだろうなって思ったよ。機知と叡智に富むレイブンクローの素質もあるよね」


(その知識で妙なことを企まなければな)


「汽車でディメンターが来たときは友人を背中に庇った。グリフィンドールの勇敢さも持ってる」


(いらん勇敢さだ)


「あ、うわさをすれば。こっちに来たよ」

「……何?」


スネイプが顔を上げると、ユイが話しかける人を適当にあしらいながら教員席の方へ足早に向かっていた。


(我輩を巻き込むな!)


スネイプは次に発せられるであろう言葉に備えて身構えた。



『スネイプ先生、お食事ご一緒し――』

「断る」

『――言うと思いましたよ!』

「ぷっ」

『ルーピン先生笑わないでください。あれじゃ落ち着いて食事できないんです』



スネイプ先生が一緒に食べてくれれば誰も近寄ってこないですと自信満々に言うユイを見て、リーマスは「なるほどね」と笑った。



「君は確かにスリザリンだ。いいよ。こっちに……僕とセブルスの間に座るといい――ただし、今日だけだよ」

『ホントですか!?ありがとうございま――教授?』


(こんなときだけ顔色を伺うな)


一言も話さないスネイプから不穏なオーラを感じ取ったユイが話しかけるとスネイプは我慢できずに立ち上がった。



「勝手にしろ。我輩はもう行く」

『え?すみません……ちゃんと席で食べますから最後まで召し上がってください』

「それはそれで周りが騒がしくてとても食べる気になれん」

『あ、ちょっと教授!』

「え?ユイ食べないの?」



席を空けたリーマスは、スネイプの後を追いかけて大広間を出て行くユイを驚きの表情で見送った。



「それにしても、あのセブルスを追いかけていくだなんて、やっぱり勇敢だよ」



笑いながらリーマスは糖蜜パイへ手を伸ばし、
ハラハラと様子を見守っていた生徒達は、スネイプのこめかみに青筋が立っているのを見て、これ以上この話はスネイプの前でしないようにしようと心に誓った。





Fin.
→あとがき
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ