秘密の部屋
□2-* 親父にもぶたれたことないのに!
3ページ/4ページ
好きか嫌いかと聞かれれば、それは間違いなく「好き」だ。
確かに周りがもてはやすようにユイはかわいいし頭もいいし大人っぽい。
だが、ユイはとにかく変わってる。
テンションの浮き沈みが激しいし、突然意味不明なことを言い始めるなんてざらだ。
そしてとにかく何を考えているかわからない。
クィディッチの試合後もそうだ。
ポッターの元へ行ってロックハートと何か話していたかと思えば、スネイプ先生につかまれて引きずり戻されてきた。
戻ってきたら戻ってきたで突然フリントに反論をし始めるし、医務室から出た僕を展望台に強引にさそった。
寮に戻りづらいから、なんて嘘に決まってる。
ドラコは、またユイに気を使わせている自分がいることに気づいて嫌になった。
「ユイも僕のせいで負けたと思っているだろ」
違うと否定されるとわかっていて……否定して欲しくて、わざと問いかけた。
だから、『そうね』と肯定されて驚いた。
(そう、だよな……)
ユイの忠告を無視してポッターにちょっかいを出し試合に負ける原因を作ってしまったのは僕だ。
きっとユイも失望したに違いない。
だから試合後に僕ではなくポッターの元へ行ったんだ。
(結局ユイも有名人ポッターの方がいいんだ)
そうドラコは思ったが、違かった。
『悔しがるって事は、それだけ本気だったってことでしょ。ドラコのこと見直したわ』
ユイは僕のことを見てくれていた。
そのことに安堵し、一気に気持ちが楽になった。
ユイと一緒にいると安心する。
皮肉を言っても、きちんと本音を聞き取ってもらえる気がするから、つい甘えてしまう。
(でも、これじゃダメだ)
心から尊敬されたいし、認めてほしい。
僕を頼って欲しい。
ユイはテンションの浮き沈みが激しいくせに、僕らに弱い所を見せたり頼ったりしたことはない。
ユイが大人っぽい分、僕らのことを子ども扱いしているように思えてならない。
(認めさせてやる)
ドラコは意を決して、立ち上がって手をさし出すユイを抱きしめた。
「ありがとう」
『お礼の仕方も知らないの?』とバカにされたことを思い出し、勇気を出してユイに抱きつくと、ふわりとシャンプーの香りがした。
(こ、これは慣れないことをしているからだ)
心臓がうるさかったが、自分から抱きついておいて取り乱すことほどかっこ悪いことはないので、必死で余裕の表情を見せる。
「ふん、感謝の仕方はこれでいいんだろ?」
『うんうん、よくできましたっ』
あきらかにバカにされている気がするが、悪い気はしない。
今まで与えられることが少なかった家族からの愛情を受けている気がした。
「ユイ……母上みたいだな」
(って何言ってるんだ僕は!)
ふとこぼれた本音にドラコは我ながらあきれ、おかしくて声を立てずに笑った。
いくら大人っぽいからと言っても、相手はユイだ。
同級生に母親の姿を重ねるだなんて、きっと箒から落ちたときに頭を打ったに違いない。
耳まで真っ赤に染めたユイの顔をのぞきこむと、彼女の鉄拳が――以前のような平手打ちではなく、握り締められたこぶしが――降って来た。
『こんな大きな子どもがいるほど年取ってないわよっ!!!』
「本気で言ったわけじゃない」
『は?そんなの当たり前でしょ?』
そうだ、その通りだ。
何を当たり前のことを言ってるんだ。
やっぱりユイは変なやつだ。
ユイを展望台に残し、1人で寮に戻ってきたドラコは、頬に痛みを感じるにつれ正気を取り戻し、嬉しさに笑みをこぼした。
(ふ……ユイが本気で怒るの初めて見たな)
ユイは二重人格なんじゃないかと思わせるほど喜怒哀楽の移り変わりが激しいときがあるが、取り乱すほど怒ったり泣いたりすることはなかった――少なくとも見せないようにはしていた。
だからドラコは常にユイと自分との精神的な差を感じていたのだが、少なくともさっきは対等に付き合えた気がした。
そう思ったら無性に嬉しくなって、暖かい気持ちになってきた。
どうやら殴られた頬の熱が全身に波及しているようだ。
(母上みたい……か)
口からつい出た言葉だが、どこかしっくりきていた。
やはりこの気持ちは、恋とかそういうのとは違う気がする。
僕のことを見て欲しいとは思うが、僕のものにしたいとは思わない。
婚約者だなんて、こっちから願い下げだ。
(そうだな、とりあえず僕の特別な友人として認めてやる)
明日会ったらユイはまた謝ってくるだろう。
そのときなんて言ってやろうか。
殴られたのは初めてだから責任取れと言ったらどんな顔をするだろうか。
(しばらく百面相が楽しめそうだな)
ルシウスに報告すべくペンをとりながら、ドラコは頬を押さえてニヤリと笑った。
fin.
→あとがき