番外編
□6-* 借りパク疑惑
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監督生には1人部屋が与えられる。
他人の目を気にしなくていい空間というものは、自分の好きなようにできるという利点がある一方で、警戒を怠りがちになるという欠点もある。
忘れ物を届けにきたパンジーを部屋に入れたユイは、まさにその警戒を怠ったことへの大後悔をしていた。
「……」
『……』
パンジーの視線はユイのベッドに釘付けだ。
ベッドの上には小さな黒い犬のぬいぐるみと、大きなくまのぬいぐるみ。
もちろんパンジーは秘密の通信手段に気づいたわけではない。
問題は隣の大きいほうのぬいぐるみだ。
ノットをテディと呼んでからかった仕返しに贈られてきた1メートルほどのテディ・ベアには、ローブが着せられている。
「ユイ、まさかとは思うけど、あれ――」
『そうそう!去年のクリスマスプレゼントにもらったやつよ!』
ユイはパンジーの目からぬいぐるみを隠すように立ち位置を変え、顔に笑みを貼り付けた。
『もうぬいぐるみっていう年でもないんだけど、もらいものだし、普通にかわいいし、1人部屋だと話し相手がいないから気に入ってるの』
「ぬいぐるみに着せてる服も、もらいものなわけ?」
『うっ……あ、あれは自分の――』
「どう見ても違うでしょう!」
パンジーはユイを押しのけ、部屋に入ってきた。
慌てて腕を掴むが、パンジーはしっかりと見てしまった。
ユイのものにしては大きすぎる、校章も寮のマークも入っていない、真っ黒のローブを。
誰のローブなのか、しっかりわかっているようだ。
「……まさかとは思うけど、盗んだわけじゃないわよね?」
『も、もちろん』
「もらったの?」
『う、ん……』
「そう。じゃあスネイプ先生に聞いて――」
『あああお願いそれだけはやめてくださいパンジー様!!』
「……」
パンジーの目は明らかに人を見下すものになっていた。
哀れみと蔑みと、後悔の色が見える。
後悔はおそらく、ユイと友達になったことに対してだろう。
「前々からちょっと変な子だとは思っていたけど、まさかこんな――ここまで非常識な変態だとは思わなかったわ……」
『違う違う!別に何も変な意味はないの!』
「嘘ね!あなたがスネイプ教授のローブを手に入れて何もしないなんてことありっこないわ!どうせ抱きしめて匂いかいだりしてたんでしょう!」
『やめて人聞きの悪い!そこまで変態じゃないわ!』
「どうかしらね」
パンジーはドラコのように鼻をならし、腰に手をあて、「説明しなさい」と言った。
もはやこれは拷問だとユイは思った。