番外編

□6-* 借りパク疑惑
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『ま、前に、居眠りしてるときにローブをかけてもらったことがあるんですよ』

「へえ」

『いつか洗濯して返そうと思って……タイミングを失ってそのまま……みたいな?』

「へえ?」



パンジーは納得していないようだったが、嘘ではないとユイは心の中で繰り返した。

いつかは返そうと思っていた。

いつかは。

スネイプに要求もされないし、ただ、もうちょっといいかな?が続いてしまっているだけだ。

そういつもしてきたように、無理やり自分を納得させ、うんうんと頷く。



「聞くのが怖いんだけど」

『じゃあ聞かないほうがいいと思うわ』

「なぜぬいぐるみに着せているのかしらね?」

『……つい出来心で』

「心なしか抱きつくのにちょうどいいサイズよね?」

『そこまでしてないわ』



ユイは心外だという表情をしたあと、開き直って説明を始めた。



『教授のローブが手元にあったら、浮かれちゃうじゃない?』

「そんなのあなただけよ」

『寒い日に着てたら、教授に暖めてもらってるような気になれるじゃない?』

「そんなのあなただけよ」

『ぬいぐるみに着せて置いといたら、いつも一緒にいる気分に――』

「あ、な、た、だ、け、よ」



パンジーは「やっぱり聞くんじゃなかった」と言ってこめかみを揉んだ。

大きなため息をつき、お手上げのポーズをとる。



「正式にもらったものじゃないなら、ちゃんと返しなさいよ?」

『はい……』

「来週もここにあったら、スネイプ先生に言いに行くわ」

『そんなチェックまでしなくても』

「だってあなた、前科があるじゃない」

『えっ』

「箒よ箒」

『あ、ああ……ドラコのローブで手を打ちませんかパンジー様』

「いらないわ。私はいつもドラコ本人に抱きつけるもの」

『ぐっ……』



うらやましい。

心の底からうらやましい。

悔しがるユイを見て満足したのか、パンジーは「箒のほうは黙っていてあげる」と言って出て行った。



『まさかバレるとは思わなかったわ。ね』



ユイはため息をつき、ぬいぐるみに向かって話しかけた。

返事をしないぬいぐるみをじっと見つめているうちに、パンジーの言葉が頭をよぎる。


――心なしか抱きつくのにちょうどいいサイズよね。


それはつまり、抱き枕ならぬ、抱き教授ができるということだ。



『……だ、抱き教授……か』



ゴクリと喉が鳴る。

好奇心と欲望と自制心が入り混じり、結果、多数決で自制心がどこかへ追いやられた。

ユイはベッドに行き、ぬいぐるみを抱えてごろんと横になった。

ぎゅうっと腕に力を入れれば、不思議と心が落ち着いてきて、なんでもできる気がしてくる。



『本物を抱きしめたいな……』

「あんたが変なもの置いてるから肝心の忘れ物を渡しそびれて――」

『!』

「……」

『……』



戻ってきてノックもせずにドアを開けたパンジーとベッドに寝転がったユイが無言のまま見つめあうこと数秒。

ユイは初めて忘却呪文を友人に使った。





Fin.
→あとがき
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