番外編
□7-* 地獄の罰則
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ユイ・モチヅキが有言実行の人だとわかったのは、次の罰則のときだ。
罰則は、前回と同じように長々とした演説から始まった。
たまに私語をしているメンバーに「おだまり!」とアンブリッジのような叱責を飛ばす場面もあった。
ネビルとジニー以外は、ユイの独り舞台を楽しみながら安心しきった顔で座っている。
そして、最後に羊皮紙2枚分の長所書き取りを言い渡され、いっせいに青ざめた。
他のメンバーからの縋るような視線が痛い。
ネビルは引きつった笑みを返すしかなかった。
『今の私の話を聞いていたら、そのまま書き写すだけでも1枚は埋まるはずよ』
あの演説は大サービスだと言わんばかりのユイに、頭が痛くなる。
一言ひねり出すだけでもひと苦労だというのに、2枚のうち1枚が埋まったところで意味はない。
『あ、相談しながら書いていいわ。そのほうがお互いに周知できるしね』
ユイはまたしても斜め上の譲歩を見せた。
一言だって(以下略)だったが、1人で絶望するよりはよっぽどいいと判断し、ネビルは全員を集めた。
しかし、ダンブルドア軍団は、スネイプに反抗的な生徒が集まる組織だ。
三人寄れば文殊の知恵というわけにはいかない。
真面目なレイブンクロー生から、前回ネビルが書いたような当たり障りのない長所がポツポツと出てくるだけだ。
「とりあえず1枚は今の話で埋まるんだろ?」
「誰か真面目に聞いてた人は……いない、よね……」
「別の人のことを書くのはどう?たとえばハリーとか、ダンブルドアとか」
これはいい作戦に思えた。
“ダンブルドアが”校長としてふさわしいという話を書きながら、主語だけスネイプにすればいい。
思い出話をしながら用紙を埋め、意気揚々とユイのところに持っていく。
『スネイプ先生の何を見ているの?』
駄目だった。
嫌味のような賛辞を書き連ねてみても、あっけなく却下され、書き直しを命じられる。
ネビルは困り果てた。
運よく逃げおおせたシェーマスが恨めしい。
「嫌いなところなら10枚だって書けるのに」
「ジニー、静かに。枚数を増やされる」
「2枚も10枚も同じよ。書けないものは書けないわ」
「そりゃそうだけど……」
「ユイがいつも言ってることを書いていくというのはどう?」
「それだ!」
今日の演説で話されたことだけしか書いてはいけないとは言われていない。
前回の話と、普段の会話を入れれば、なんとか埋まるかもしれない。
「で、誰かユイと良く話す人は――」
「みんな親衛隊よ」
「そりゃそうだ」
「お手上げじゃないか」
だいたい、親衛隊のメンバーだってユイの話を真面目に聞いているとは限らない。
うわさによるとユイは監督生権限を使って新入生に同じような演説をしていたらしいが、喜んで聞いていた人はいないだろう。
ユイがスネイプを良く思うのだって、スネイプに贔屓されているからだ。
「あ、そうだ。スネイプがユイ贔屓だっていう話はどうだろう」
「それって長所になるの?」
「自分の気に入っている人に対しては甘いっていう方向で、なんとかならないかな?」
「書き方に気をつければいけるかも」
スネイプのユイへの態度を書き、ユイを紹介する文を書き、“態度が硬化するのは反抗的な態度を取る自分達が悪い、スネイプ校長に迷惑をかけないようにします”と心にもないことを付け足す。
我ながら反省文っぽい良いレポートが出来上がった気がする。
恐る恐る見せにいくと、ユイは唸りつつもOKを出してくれた。
ちょうど夕食の時間になっていたが、大広間に行く気力がなくなるくらいには疲れる罰則だった。
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