番外編

□5-5 [IF]スニーといっしょ!
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スネイプが階段を降り始めてもユイはローブを離さなかった。

粘着呪文がかかっているのかと思わせる力でしがみついている。

だん、だん、だん……と、スネイプの背後で鈍い音が規則正しく鳴った。

その都度『いたい!』という声も聞こえる。

痛いなら離せばいいものを、意地なのか馬鹿なのか知らないが、手を離そうとはしない。



『いた!いた!いたい!』

「嘘をつくな」



ピアスをつけているのだ。

この程度の衝撃なら吸収できる。

そうでもなければ、いくらスネイプでも、さすがにローブの裾に小さな子どもをくっつけたまま階段を降りたりなどしない。



『いた、くない!ほん、とだ!すごい!いたい!ない!』

「うるさい離れろ」

『いや!ユイ、スニーと、いっしょ!かえる、もん!』



もうただの反射のようだった。

段を降りるたびに何かしら叫んでいる。

おかげで部屋から出てきた連中に非道だのやはり任せられないだの好き勝手言われる羽目になった。

仕方なく小脇に抱えたら抱えたで、ぬいぐるみを持っているようだとまた笑われる。



『スニーのおうち、とおい?』

「その名で呼ぶな我輩はスニーではない!」

『じゃあなに?ユイはね、ユイだよ』

「……スネイプ」

『わかった、スネイプ!』

「……先生」

『せんせー!』



これは本当にユイ・モチヅキなのだろうかと一抹の不安を残しながら、スネイプは姿くらましをした。







スネイプの家に戻ったところで、ユイの魔法は半分解けた。

少しだけ身長が伸び、きぐるみから解放されたユイを前に、スネイプは首をひねった。

段階を踏んで効果が切れるものは珍しい。



『すみません、2回分あるんです』



ユイは申し訳なさそうに夕食後のできごとを話した。

シチューを飲んで小さくなり、戻ろうとしたときにもみ合ってさらに薬がかかったという話を、スネイプは眉をひそめながら聞いた。



『まだ開発途中っぽかったのでこれは予想ですが、直接かかった場合と服用した場合で効果時間が異なるのかもしれません。そうじゃなければもう元に戻ってもいい時間です』

「……詳しいな」

『私も知っている薬なので。教授もご存知のはずですよ。縮み薬の授業でネビルが失敗したことがあったじゃないですか』

「教授、授業、ネビル……」



自問自答するようにスネイプの口から出た単語を聞き、ユイはハッとした。

その様子を見て、スネイプも確信する。

見た目と中身に差異がある、と。



「……モチヅキ、お子様ごっこはさぞ楽しかったことであろう。ぜひどういう気持ちだったのかお聞かせ願いたいものだ」



思い出すだけでも腹立たしいグリモールド・プレイスでの出来事。

あれが全員で共謀していたことなのだとしたら、到底許せるものではない。

最後の晩餐へ行かせてやったことで調子に乗ったのだとしても、限度というものがある。

返答次第では決別してやるという意志を持ってスネイプは鋭い目をユイへ向けた。



「ああ、ファミリーネームでは返事をせぬ設定でしたな、ユイ」

『あ、あれはですね!』



ユイはしどろもどろだった。



『た、たぶん、タンブルドアが私に記憶を埋め込んだ年齢に関係していると思うんですよ』

「ほう」

『今の年齢なら中身は変わらないけど、さらに小さい私は何もわかっていないから、ただの馬鹿な子だなーって……』

「それで?」

『全面的にすみませんでした』



ユイが床に膝をついて座った。

土下座だ。



『とんでもなく失礼な子どもだったのに連れ帰ってくれてありがとうございました』



最大級の謝罪を示すポーズだと聞いていたが、なぜかユイは頭を下げて感謝の言葉を述べた。
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