番外編

□5-5 [IF]スニーといっしょ!
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全身どころかオーラまで黒いスネイプが、ジロリと部屋の中を見回した。



「これはこれは、みなさんおそろいで」



ニヤリと口元が歪み、猫なで声が発せられる。

部屋にいる全員が、スネイプと目を合わせることを避けるように明後日の方向を見た。



「実にわかりやすい反応だ、感謝したいほどに――モチヅキはどこだ?ニンファドーラ」

「さあ。知らないわ」



ケロっと答えるトンクスの度胸にハリーは感心した。

怖がっているからなのか、じっとしているよう言われたからなのか、ユイもトンクスの膝の上でスネイプに背をむけたまま動かない。

もしかしたら本当にこのまま乗り切れるかもしれない――。

そう思ったが、甘かった。



「モチヅキ!モチヅキ――、ユイ!」

『あい!』

「あっ」

「……」



スネイプがユイのファーストネームを呼んだことで、きぐるみが元気よく手を上げたのだ。

ついでにぴょんとトンクスの膝の上から飛び降り、ドアのほうを向いた。

ぬいぐるみと同化している小さな子どもを見て、スネイプが頬を引きつらせる。



「……どういうことだ?」



スネイプの怒りの矛先がフレッドとジョージだったことに、ハリーはひとまず安堵した。



「それがですね、スネイプ教授」

「僕らも困っていたところでして」



2人は悲劇的な表情をしたり、縋る目を向けたりしながら、スネイプに事情を説明した。

どうやらユイを繋ぎとめることを諦めて、スネイプからの報復を避ける方に舵を切ったようだ。

いろんな解釈の仕方ができる言い方をちりばめ、あくまで不測の事態だったと取れるようにしている。



「つまり自分達は何も悪いことをしておらず、突然起こった出来事に困り果てていたところだったと――」

「そりゃもう」

「驚きましたよ」

「では我輩が連れ帰ってもなんら問題はないということになるな?」

「はい、でも」

「本人が何て言うか」

「フン……帰るぞモチヅキ」



スネイプは自信満々で言ったが、ユイは反応しなかった。

トンクスの膝をぺちぺち叩きながら、また豚の鼻をやってくれとせがんでいる。



「聞こえなかったのかモチヅキ、1時間はとうに過ぎている」

「そんなやつについていく必要はないぞ、ユイ」

『あい!』



肖像画をおとなしくさせて戻ってきたシリウスがスネイプの言葉を遮り、ユイはまた姿勢を正して返事をした。

スネイプの眉間にこれでもかというほど皺が寄る。



「調子に乗るなブラック。何をしたのかは知らんが1時間と約束したのだ、姿が変わろうとも記憶を失おうともなかったことにはならん」

「それはお前の都合だろスニベリー」



シリウスが鼻で笑い、臨機応変さが足りないとスネイプを馬鹿にした。

殴りかかりそうなスネイプをリーマスが止め、シリウスの言い分にも一理あると冷静に話す。

小さな子どもの世話ができるのか、本人の意思を尊重すべきだと、畳み掛けるように回りのメンバーも言い始めた。

いつもなら周りが何を言おうともユイが自主的にスネイプについてくるのだが、今の状態ではそうもいかない。



「チッ」



圧倒的に不利な状況に、スネイプが舌打ちをした。

その様子を見てユイの眉が下がり、シリウスが勝ちを確信する。



「な?スニベリーは嫌なやつだろ?ここにいろ、ユイ」



ユイは今まで名前を呼ばれれば必ず手を上げて返事をしていたが、なぜか黙ったままだった。

不思議そうにスネイプを見ている。



「どうしたユイ、ここに残るだろ?」

『ユイ、スニーとかえる』

「なんだって?」



ユイがスネイプをスニーと呼んだことで、リーマスとトンクスが噴き出した。

スネイプのこめかみもぴくりと動く。

不機嫌を極めた恐ろしい形相だ。

それなのに、幼児化したユイは、怯むことなくスネイプに近づきローブをつかんだ。



『みんななかよしだけど、スニーはぼっちだから、ユイがともだちになってあげるの』



胸を張って得意そうに言うものだから、今度は子ども達も噴き出した。

「スニー」「ぼっち」と小声で言い合いながら、肩を震わせている。

スネイプは羞恥と怒りで肩を震わせた。



「――ユイ!」

『あい!』

「“ともだち”が欲しいなら君はここに残り仲良しごっこに混ざるがいい、我輩の家の敷居は二度と跨がせん!」



怒鳴り散らしたスネイプは、勢いよく反転した。

ひらりと舞ったマントの裾を、ユイが両手で掴む。

それでもスネイプは止まらなかった。

ずるずると引きずられるようにユイがドアから出て行った。




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