後日談

□受胎告知
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『……あの』



ユイはジェームズとの会話を諦め、リリーに向き直った。

美人で、聡明で、正義感のある、スネイプが愛したエメラルドグリーンの瞳が真っ直ぐに見返してくる。

一呼吸置き、ユイは口を開いた。



『スネイプ先生はずっとリリーのことを気にしていました。今でもきっと、大切に思っています。だから、その――』

「恨んではいないわ」



ユイの心中を察したのか、リリーは微笑んだ。



「ただ、ちょっと道を違えただけよ」

『それでもずっとあなたが好きだったんです。あなたへの愛だけで、生きていたんです』

「そうかしら?」

『そうです!だから、結ばれるのは叶わなくとも、その想いが、努力が、報われてほしいと、そう思っていました』



言いながら涙が出てくるのがわかった。

スネイプがどうリリーへの想いに折り合いをつけたのか、ユイにはわからない。

ただ、任務が終わったからといって全てチャラにできるような単純なことではないことは確かだ。

せめて苦しかったスネイプの十数年をリリーにわかって欲しい。

スネイプが過酷な試練を乗り切ってこれたのは、遠い昔のリリーとの思い出があったからこそだと伝えたい。



「やっぱりあなたに頼んでよかったわ。彼に寄り添ってくれてありがとう」

『私じゃなくてっ――』




ありがとうと言われるべきは、リリーのほうだ。

リリーがありがとうと言うなら、それはスネイプへ向けて言うべき言葉だ。



『教授に、会ってあげてください……』

「もう会ったわ。そして彼は改めて自分の道を選んだの」

『そう、なん、ですか……?』

「ええ。セブルスにも言ったけれど、私はずっと見てきたのよ。ハリーを守ってくれたことも――ハリーをいじめるところもね」



最後だけ声のトーンが変わった。

心なしか睨まれている気もする。


(私は止めようとしましたよ!?)


全部じゃないし傍観していることのほうが多かったが、なるべく被害を減らそうと努力はしたはずだ。

ハリーのためじゃなくてスネイプのための行動だったと見抜かれて怒っているのだろうか。

というかそれはさっきジェームズのせいということで落ち着いたんじゃなかったのか。



「そうだったわね」



リリーは元の笑顔に戻った。

完全に心が読まれている気がするが、その辺はもうどうでもいいやと思った。

“セブルスにも言ったけど”という一言で、救われた気持ちになる。



『ありがとうございます。リリー、教授があなたに出会えてよかったです』

「ふふ、そっくりそのまま返すわ」

「ねー、2人とも、僕のこと忘れてないかい?」



リリーとユイが笑いあっていたところに、突然ジェームズが割り込んできた。

いい雰囲気が台無しだ。

あまりの空気の読めなさにユイは呆れ、リリーはこめかみを揉んだ。



「今話題にしたでしょう」

「なになに、何の話で?僕に出会えてよかったって?」

「ハリーの話よ」

『そうだ!私、ジェームズのことも殴りたかったんだ』

「え!?なんだい急に!?」



立ち上がったユイを見て、ジェームズも反射的に立ち上がった。

さっと逃げるようにリリーの反対隣へ移動する。

ユイはリリーをチラッと見た。

肩をすくめ、目を瞑られる。

見て見ぬふりをするからお好きにどうぞ、ということらしい。



「リリー!?君は暴力が嫌いだろう!?」

「うるさいわね、どうせ痛くないんだから1発くらいやられてあげなさい」

「痛くないかどうかなんてわからないじゃないか!というか痛くなくても嫌だよ!」

『教授と約束したんで!』



ジェームズは数に入ってなかったけど、この際なんでもありだ。



「スニベリーとの約束なんて守る必要ないって!」

『誰がなんですって?』

「今のはちょっと口がすべって!君はハリーと同じ顔を殴るのかい!?」

『目が違うから大丈夫よ!』

「つまり目を瞑れば――」

『逃げられなくてありがたいわね』



ユイは大きく手を振りかぶった。




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