第一幕

□11.スリザリン
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きっかけがほしいと思っていると、それは思いがけず手に入るもので、エメリーは魔法史の授業後、机の中に手帳が置きっぱなしになっていることに気づいた。



「どうしたの?」

『忘れ物みたい』

「誰の?」

『わからない。中、見るのはよくないよね……?』

「そうね。せめてカバーにイニシャルでも書いてあればいいんだけど……」

「ああそれ、レギュのだ」



リリーとエメリーが紺の大判の手帳を見ながらあれこれ言っていると、後ろから覗き込んだシリウスがすぐに気づいて指摘した。



「バンドに家紋が押してあるだろ?その、銀の留め金のところだ」

『これ?』

「そうそう。ちなみにそれ、手帳じゃなくてスクラップブックだ。あいつ、学校にまで持ってきてんだな」

『何か集めてるの?』

「ああ、記事を……やめろって何度も言ったんだが、聞かなくてな」

『そんなに大切なら、ないと困るよね?私、返してくる!』

「え?ちょっとエメリー!次も授業あるのよ!?」

『うん!少し探してみて、いなかったらまた後にする!』

「待ってエメリー!私も――」



一緒に行く、とリリーが言うころには、魔法史の教室にエメリーの姿はもうなかった。







エメリーはスリザリンの寮に向かおうとして、それがどこにあるのか分からないことに気がついた。

地下にあるという噂は聞いたことがあるが、どこから行けばいいのかわからない。

諦めてまた後にしようと思い、エメリーは荷物を取りに魔法史の教室に戻った。



『あ、レギュラス!』



ちょうどよいタイミングで、レギュラスが教室から出てきた。

しかも、めずらしいことに1人だった。



『もしかして、忘れ物のこれを取りに来たの?』

「はい。よく僕のだってわかりましたね」

『バンドの家紋が――』

「ああ」



レギュラスは素っ気ない返事をしつつも、礼儀正しく「ありがとうございます」とお礼を言った。

そして、右手を伸ばして本を受け取ろうとしたとき、レギュラスは急に眉をしかめた。

視線は、エメリーのネクタイに向いていた。



「グリフィンドールの人が、何の用です」



バシッと奪うようにして、手帳はエメリーの手からもぎ取られた。



『えっと、だから、忘れ物……』

「忘れ物にかこつけて、何をする気だったのかを聞いているんです。ブラック家の家紋を知っているということは、兄がらみの人ですか?」

『うん。家紋のことはシリウスから――』

「僕に取り入ったからといって兄に近づくことはできませんよ」

「え?取り入るってどういうこと?」

「白々しい……だいたい、初対面なのに馴れ馴れしく名前で呼ばないで下さい」

『え、ええと……』



最初の礼儀正しさから一変して、レギュラスの口調は冷たく、早口でまくし立てるようになっていた。

エメリーはレギュラスがどうして怒っているのかわからなかった。

しかも、初対面と言われて、頭が混乱していた。

これはあのとき会ったレギュラスではなく、別のレギュラスなのだろうかと、わけのわからないことを考え始めていた。



「エメリー、なんで上に戻ってんだ――って、レギュ、いたのか」



大理石の階段を駆け上がってきたシリウスは、レギュラスの腕の中のスクラップブックを見て、「渡せたのか」と納得した風に頷いた。



「……僕がここにいてはいけませんか、兄さん」

「別に。エメリー、返したならすぐに戻るぞ。次は薬草学だから間に合わなくなるってエバンズが玄関で心配してた」

『あ、でも、荷物が』

「それもエバンズが持ってる」

『わかった。すぐ行く!』



親しげに話すエメリーとシリウスを、レギュラスは疑いの目で見ていた。



「んだよ」

「いえ……知り合いだったんですね」

「は?何言ってんだ?夏休みに紹介しただろ」

「……ああ、あの時の」

「忘れてたのか?」

「純血でもない人のことを、いちいち覚えていられません」



ギュラスはスクラップブックの埃を払うようにパンパンと叩き、どこかへ行ってしまった。




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