第一幕

□06.イエス・キリスト
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5人を見送ったエメリーは、ホグワーツへ戻り校長室へ向かった。

初めてクリスマス休暇の話を聞いたときは、しばらく孤児院で独りきりなのかと心細くなったが、ホグワーツに残ることも可能だと知って安心した。

ここにはエメリーの家族がいる。

思えば、家族と――誰かと過ごすクリスマスは、エメリーが覚えている限り初めてだ。

どんなに素敵なことなのだろうと高鳴る胸に、自然と足取りは軽くなる。

螺旋階段を上り、ドアをノックし、待ちきれず「どうぞ」という声と同時にドアを開けて中へ駆け込んだ。



『アルバスっ!』

「おお、エメリー、元気そうじゃの」



腕を広げてエメリーを迎え入れたダンブルドアは、自分と同じ色の髪をなで、ソファに一緒に座った。

ダンブルドアは普段はエメリーのことを特別扱いしない。

エメリーもそのことを分かっていたため、入学式以来ここを訪れたことはなかったし、なるべく“ダンブルドア校長”と言うようにしていた。

だが今はクリスマス休暇だ。

エメリーは他の生徒たちが家に帰って家族にするように、普段の学校生活の様子をダンブルドアに話して聞かせた。



『それでね、リリーがジェームズに怒鳴ってね――ジェームズってば、リリーに怒られても平気みたいなの。怒っていてもかわいいんだって。さすがリリー大好き同盟会長よね』

「ほほ、エメリーは良い友達に恵まれているようじゃの」

『うん、みんな大好き』

「クリスマス休暇中、寂しくなるじゃろう」

『うん……でも、家族が2人も一緒だから大丈夫よ!』

「おお。わしとしたことが、大切な家族を1人忘れておったわい」



“2人”という言葉にダンブルドアは笑い、今まで静かに棚に陳列されていた古びた帽子を取りに行った。

帽子は、入学式の夜と同じく泣いていた。



「なんという身に余る光栄!お嬢様が私を家族として数えてくださっているとは!」



私にも友達のことをお聞かせくださいという組み分け帽子に、エメリーは『もちろん』と言ってリリーのことを話し始めた。



『それでね、リリーが私にクリスマスプレゼントをくれるって言って――』

「どうかなさいましたか?」



突然言葉を濁したエメリーに、帽子は首をかしげた。



『どうしようアルバス!私、リリーにプレゼントをあげる約束したのに、プレゼントを買うお金がないの!』



孤児院から身ひとつできたエメリーにも、当たり前のように学用品が準備されていた。

そのため、今の今まで、物を手に入れるためにはお金が必要だということすら失念していた。



『ごめんなさい。私、魔法界に舞い上がって、学校に必要なものをアルバスが揃えてくれたときに、ちゃんとお礼も言っていなかったわ……』

「エメリー、祖父が学用品を孫に与えるのはごくごく自然のことじゃよ。お小遣いをあげるのも、じゃな」



ダンブルドアが楽しそうにウインクをし、エメリーもつられて笑った。

しかし、すぐに申し訳なさそうに俯いた。



『ありがとう。でもなんだかいつもよくしてもらってばかりで悪いわ。こんな得体の知れない私に……』

「なんということをおっしゃるのですか!」



突然帽子が声をあげた。

心外だとでも言いたげに震えている。



「お嬢様、あなたは誰の血を引いているのかおわかりですか?ゴドリック・グリフィンドール――そう、私のご主人様です。知らぬ者がいない有名な伝説の魔法使いですよ!」



自覚を、誇りを持って下さいませと嘆く帽子の姿を見て、エメリーはふとシリウスの言葉を思い出した。
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