後日談

□忘れられた呪い
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「早かったな。準備をするからちと待っとってくれ」



ファングに餌をあげていたハグリッドは笑顔でユイを出迎え、雑多な部屋の片隅を漁り始めた。

金貨袋を大きなリュックに次々と入れていくハグリッドの姿を、ユイは首を傾げて見ながら待った。

何の手伝いなのか、まだ教えてもらっていない。



「よし待たせたな。行くか」



準備を終えたハグリッドがリュックを背負い、斧を持って外に出た。

リュックはフリットウィック先生くらいならすっぽり収まってしまうんじゃないかというような大きさになっている。



「管理人の仕事はいいのか?スネイプに許可を取ったか?」

『大丈夫よ。今日はなんの仕事?』

「森の修復が終わらねえんだ」



禁じられた森を進むにつれ、ハグリッドの顔から笑顔が消えていった。



「戦争でボロボロにされて、みんないなくなっちまった」



ハリー・ポッターの勝利から2周年を控えた、華やかでお祝いムードの世間とは切り離された、静かな空間がそこにはあった。

戦争後に連日縄張り争いを繰り広げていた住民たちは、敗者が去るという形でしか収束できなかったのだと言う。



「建物とは違う。動物の住処は魔法じゃ元に戻らねえ。それでも俺はあいつらが戻ってきたときに、前と同じような生活ができるようにしてやりてえんだ」



森を取り戻すにはまだまだ時間がかかるんだとハグリッドは繰り返した。

ところどころに巨人になぎ倒された木が転がっていたり、焼けた地面が丸出しになっていたりする森の姿を見て、確かに時間がかかりそうだとユイも思った。

広めの場所で荷物を下ろし、手渡された袋の中身は金貨ではなく黒や茶色の粒だった。

色も大きさもバラバラだ。



「とりあえず何でもいいから植物がたくさん必要だ。あとはあいつらが勝手に自分達の住みやすい場所を見つけて居ついてくれる」

『植物……ってことは、これは種よね?何の?』

「わからねえ。スプラウト先生に余っているもんを分けてもらった」

『スプラウト先生って!ねえハグリッド、何でもっていうのはさすがに危険じゃない?』

「そんなことねえ。禁じられた森は危険だってずっと言われちょったが、俺はちいっともそんな風には感じなかった」



ユイの話も聞かず、ハグリッドは種をそこらへんにばらまき始めた。

専門外のため、見た目では何の種かさっぱりわからない。

どうかマンドレイクや食虫植物の類ではありませんようにと祈るのみだ。


(あとでスプラウト先生に確認しに行ったほうがいいよね……?)


ハグリッドが何と言って種を分けてもらったのか知らないが、温室で育てられていた植物たちを思い返せば、森の再生に向く植物ではないと想像がつく。

ユイはハグリッドの目を盗んで種をいくつかつまんでポケットにしまった。







謎の種に戸惑いつつもハグリッドと手分けをして作業を続け、昼を過ぎた頃、どこからともなくフィレンツェが現われた。

適当に蒔かれた種を迷惑そうな顔で見ているフィレンツェの腹部に傷跡のようなものは見られない。

あの戦い以降姿を見ていなかったが、すっかり癒えているようでひと安心する。



「災いの周期は去った」



フィレンツェは挨拶もそこそこに話し始めた。



「あなたが言う通り、私の知る定めとは少し違った終わり方でした」

『ヒトもなかなかやるもんでしょう?』



戦いの最中にフィレンツェと交わした会話を思い出しながらユイは続けた。



『知っていることは便利ですが、定めだからといってすべて受け入れる必要はないと思います。たぶんあなたはわかっていますが……』

「あなたがそうだったように、我々でも星を読み違えることはあります」

『え?私も?』

「ユニコーンは、尊い生き物です」

『……そうですね』

「それを犯した者に与えられる罪もまた、定めでしょう」

『どういうこと?』



かみ合わない会話にユイは眉根を寄せた。

犯したとは――罪とは、どういう意味だろうか。



『私が関わったことで、何か別のよくない定めが見えたんですか?』

「星読みは簡単にできることではない」

「おーい、ユイー!そのへんでいい。戻るぞー」



フィレンツェが同じことを繰り返したとき、遠くからハグリッドが呼ぶ声がした。



『待ってハグリッド、いまフィレンツェと話を――』

「あなたにユニコーンの加護があらんことを」



フレンツェは体を反転させ、ユイが呼び止める間もなくどこかへ行ってしまう。

話の意図がつかめないまま、会話はそこで切り上げざるを得なかった。




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