死の秘宝

□26.セブルス・スネイプ去る(前編)
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『ああもうっ!余計なこと考えてる場合じゃないのに!』



スリザリン寮から出てすぐに姿を消したリドルに悪態をつきながら、ユイは暗い廊下を走った。

ラジオが流れたから映画の展開かと思いきや、必要の部屋に向かう途中で手首の印が熱くなった。

ユイの記憶に間違いがなければ、これはアレクトがハリーを捕らえたことをヴォルデモートに知らせる、原作独自のものだ。



『どっちかはっきりしてよ!』



今までに何度も思ったことだったが、今回ばかりは心の底からの願いだった。

スネイプが学校を去ってしまえば、救うことは非常に困難になる。

ヴォルデモートがスネイプを呼び出す場所がボートハウスなのか、叫びの部屋なのか、はたまた別の場所なのか、もはやユイには知りようがない。

なんとしてでも、学校から出て行くのを阻止しなければならない。

少なくとも、自分も一緒に学校を去る必要がある。



『ああもうっ!レイブンクロー寮遠いし!』



フィルチやゴーストに見つかることを気にしている場合ではなかった。

アレクトが失神したあと、マクゴナガルがレイブンクロー寮にかけつけ、ハリーからの話を聞いて守護霊を飛ばすまでの時間がどのくらいあるのかわからない。



『ええと、確か寮に続く螺旋階段を降りてさらに2階下におりた場所だから――』



すがるように記憶の糸を手繰り寄せたが、具体的な情報は少なすぎた。

甲冑なんてどの廊下にもたいてい置かれているし、教室の数も膨大だ。



『落ち着かなきゃ』



ユイは螺旋階段まできたところで、呼吸を整えて耳を済ませた。

階段の上からは物音が聞こえない。

となると、どこかの階段からもう下に降りているはずだ。

辺りを注意深く観察していたユイは、奥の廊下をさっと銀色の影が横切ったのを見逃さなかった。



『よし、あっちね』



銀色の影がどんな形をしているのかまではわからなかったが、それがマクゴナガルの守護霊であるということをユイは知っていた。

ハリーから話を聞いたマクゴナガルが、他の寮監に警告を出すために放った守護霊だ。


まだ、時間はある。


突き当りを守護霊が飛んできた方向に曲がり、最初に見えた階段を駆け下りる。

ちょうど2階分降りたところで、ユイは大きな黒い影とぶつかった。

転んだ弾みに甲冑を引っ掛け、ガランガランという盛大な音が静かな廊下に鳴り響いた。



「そこにいるのは誰です?」



緊張感溢れる声は、マクゴナガルのものに間違いなかった。

――ということは、と考えるまでもなく、ユイの頭上からおなじみの低い声が降ってきた。



「我輩だ」



スネイプは寝巻き姿ではなく、いつもの黒いマントを着て、杖を構え、決闘の体勢を取っていた。

対峙するマクゴナガルも、タータンチェックの部屋着姿ではあるが、同じく決闘の体勢を取っている。

他には誰もいないように見えるが、マクゴナガルの隣には透明マントをかぶったハリーとルーナがいるはずだ。



「カロー兄妹はどこだ?」

「あなたが指示した場所だと思いますね、セブルス」



スネイプが静かに聞き、マクゴナガルも静かに答えた。

冷たい声だとユイは思った。

そして、マクゴナガルはスネイプがダンブルドアを殺したと思っていることを思い出した。



「我輩の印象では、アレクトが侵入者を捕らえたようだったが」



スネイプは言いながら、マクゴナガルを通り越して素早く周りの空間に視線を走らせた。

まるでハリーがそこにいることを知っているかのようだ。



「そうですか?なぜそのような印象を?」



スネイプは左腕を軽く曲げた。

闇の印が刻印されている腕だ。

マクゴナガルは納得したように頷いた。



「ああ、当然そうでしたね、あなた方死喰い人が、仲間内の伝達手段をお持ちだということを忘れていました」
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