死の秘宝

□26.セブルス・スネイプ去る(前編)
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「こちらDA、新しい天気予報だ。稲妻光る!繰り返す――」



周波数を合わせておいたポッターウォッチから、聞き慣れた声が流れた。

ハリーがホグワーツに戻ったことを知らせる喜びと興奮に溢れた声が、ユイの顔から笑みを奪い去った。

しかし、それも一瞬のことで、一呼吸置いて立ち上がったユイは、リドルに向かって微笑んだ。



『さて、どうする?』

「ポッターを殺しにいけと言えば君はそうするのか?」

『しないし、リドルはそんなこと言わないわ』

「本気で言ってる?あいつは僕の大切な日記を破壊したんだ。この僕がこんな姿でいなければならなくなったのは全てあいつのせいだ」

『そうかもしれないけど、ハリーを殺したって日記は元に戻らないわ。それに、あまり時間がないの』



ユイは手早く着替えを済ませ、カバンの中身を確認して部屋から出た。

ところどころにエメラルド色の光が反射している冷たい石壁の廊下は静まり返っていて、ユイの足音はよく響いた。

深夜の談話室にも当然人はいない。

これから何が起こるかなど知らずに、暖かいベッドでぐっすり眠っているだろう。

次に眠るのが棺の中になる生徒がいるかもしれないと思うと、こみあげてくるものがあった。



『ちょっと真面目な話をするけど、もうすぐここは戦場になるじゃない?』



不安を打ち消すように、わざと軽い口調でユイは言った。

不満そうに後ろをついてきていたリドルは、壁に掲げられたスリザリンのタペストリーを見ながら答えた。



「君の理屈でいくと、そうらしいね」

『どこかにしまっておく?私の鞄の中にいたら燃やされちゃう可能性だってあるし、私が死ぬ可能性もある。本体に戻るっていう選択肢もあるのよ?一応』

「君は馬鹿なの?」



少し考える風に間を置いてから、リドルが言った。



「そんなヘマは許されない。この僕を燃やしたりなんかしたら、君を殺す。それに――」

『ん?』

「あいつは死ぬんだろう?それなら、戻るなんてことは愚かな行為でしかない」

『それは、』



ユイは言葉を失った。

リドルに物語の全てを知られていることにも、本人がそれを冷静に受け止めていることにも驚いた。


大切な大切な自分自身が死ぬだなんて、ヴォルデモートなら絶対に受け入れられないことだ。

リドルがいくら青年時代に切り離された魂だからといって、自分が誰かに負けることを認められる性格だとはとても思えない。

ただ、もし知っていたんだとしたらと考えると、今までの必死さにも納得がいく。


可能かどうかは別として、“切り離された魂”側が肉体を持つことができれば、本体に取って代われるかもしれない。

そのわずかな可能性を探っていたのだ。

もっとも、日記を破壊されたトム・リドル青年は、もはや“魂の欠片”ですらないのだが――。



『ええと……』

「いいからさっさと行きなよ。それから、その歩き方には何か意味があるの?」



同時に出ている右手と右足を見ながら、リドルは鼻で笑った。




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