死の秘宝
□15.冬のアリア(前編)
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結局ルシウスは最後まで座ったまま動かなかったが、ときどき杖を動かしては星を降らせたり妖精を飛ばしたりしていた。
飾りつけは昼までかかり、食卓につくころにはみんなくたくただったが、ホグワーツにも負けない、立派なクリスマス仕様の部屋ができあがった。
食事も、ディナーのような豪華な料理がずらりと並んだ。
メリー・クリスマスの掛け声と共に、4人でシャンパンのグラスを掲げる。
どんな魔法を使ったのか、気泡は星のように輝き、グラスから出た後もキラキラと輝いていた。
『こんな素敵なクリスマスは初めてです!』
「気に入ってもらえたようで何よりだ」
「こういったことができるのも、あなたたちのおかげなのよ」
『私は何もしていないですよ!ドラコがルシウスさんを釈放するために頑張ってたんです』
「もちろんだとも。そして私の手に今も杖が残っているのはユイのおかげだ」
「自慢の子ども達だ」と言うルシウスからは、出会った頃のような策略的なものは一切感じられない。
父親らしい一面を、初めて見たかもしれない。
ドラコはルシウスに自慢だと言われて感動しているようだった。
地下牢には今も囚われている人がいるし、ここが死喰い人達の拠点であることは変わっていない。
しかも今夜は、ハリーがナギニに襲われる日だ。
それなのに、今この瞬間のこの空間だけは、平和な別世界のように感じられた。
*
『ドラコ、お願いがあるんだけど』
大広間から自分達の部屋に戻る途中で、ユイは思い切って切り出した。
あれから考えたのだが、ユイがホグズミードに行くチャンスはほとんど皆無だ。
休暇の帰宅時は日程が決まっているうえに教員が付き添うともなれば、学校に戻る日付をずらすしかない。
予想でしかないが、休暇の最終日に帰ればまた教員に付き添われて学校に戻ることになるだろう。
もっとも、それを期待してほとんどの生徒が最終日に戻るのだろうが。
「なぜだろうな。嫌な予感しかしないな」
『お。するどい』
「……」
『早めに学校に戻りたいんだけど、一緒に行くフリをしてくれない?』
「わかった」
『え!いいの!?』
予想外の返答に、ユイは素っ頓狂な声を上げた。
「なんだ、反対して欲しかったのか?」
『いや、そういうわけじゃないけど、理由は問い詰められるかなと思ってた』
「聞いたってどうせ言わないだろ」
『う、まあ……』
「去年ユイは僕のやっていることに口出ししなかったからな。僕もあれこれ言うのをやめる」
『あ、ありがとう』
詮索されずにすんで助かったはずなのだが、どこか寂しい気持ちもあった。
贅沢な悩みを持ったまま部屋に戻ったユイは、忘れないうちにとハリー達に“蛇に注意”とメッセージを送っておいた。
***