死の秘宝
□15.冬のアリア(前編)
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ウィルトシャーの豪邸で迎えるクリスマス休暇は、ちっともクリスマスらしくなかった。
華やかなパーティが開かれるわけでもなければ、クリスマスツリーが飾られるわけでもない。
申し訳程度に部屋にだけリースやリボンで飾りつけがされていたが、廊下や客間は普段と変わらず冷たい石壁がむき出しだった。
『宗教変えたの?』
「馬鹿言うな」
クリスマスの朝、ユイはドラコと一緒に客間に向かいながら、キョロキョロと辺りを見渡した。
以前ユイが冬休みに戻ってきたときは、ホグワーツに負けないほどの豪華な飾り付けがされていたが、今はその名残すらない。
魔法でできることだから、予算がというわけでもないはずだ。
浮かれ気分になれないということなのだろうか。
朝食を取るために入った客間も、会議をしているときと何ら代わりはなかった。
「メリークリスマス」
2人に向かって、ルシウスが淡々とした口調で言った。
テーブルにはまだ何も乗っていない。
薄暗い部屋の中で、暖炉の灯りがルシウスの顔に陰影を落としている。
ドラコは眉根を寄せた。
「父上、緊急の会議でもあるのですか?」
「いや、今日は何もない。この屋敷にいるのは我々だけだ」
『じゃあどうして……』
頭上に疑問符を浮かべ、ユイとドラコは顔を見合わせた。
何かよくないことの前触れなのではないだろうかと、緊張で身体が強張る。
入り口に立ったままの2人を見て、ナルシッサがクスクスと笑った。
「ルシウス、あまりもったいぶらないであげてくださいな」
「そうだな。このくらいにしておこう」
ルシウスが立ち上がり、天井に杖を向ける。
パッと部屋の中が明るくなった。
「明日になればまた死喰い人がここを訪れるようになる」
「1日限りと言うのはもったいないけれど、仕方がないわ」
「ええと、母上?」
『どういうことでしょうか?』
ドラコとユイはまだよく状況が飲み込めていない。
ルシウスが「一緒にやろうと思ってね」と言っても、数秒間は意味を理解しきれなかった。
『か、飾りつけ……?』
「他に何かやりたいことでもあったかな?」
『いいえ!素敵!』
「父上、そんなの、僕たちがやる仕事では……」
「ドラコ、仕事ではなく娯楽と考えるのです」
うろたえるドラコに、ナルシッサが優しく微笑んだ。
ナルシッサの笑顔を見るのも久しぶりだ。
ドラコはしぶしぶ、ユイは張り切って杖を取り出し、大掛かりな客間の飾り付けが始まった。
『ドラコ、ツリーの星まがってるー』
「わかってる!」
「ユイ、こっちにきてリボンを上げるのを手伝ってちょうだい」
『はーい』
「燭台が足りないな」
『あ!ルシウスさん!しもべ妖精使っちゃ駄目ですよ!自分達でやるって言ったんだから!』
「働くのは嫌いでね」
「父上!?」
『ちょっと!言い出しっぺ!』
「まあまあ、いいじゃない。私達だけで楽しみましょう」
「母上、僕、父上と一緒に見学していたいです」
「あなたがそうしたいならいいのよ、ドラコ」
「……いえ、僕も手伝います」
(ナルシッサさん強い……)
にっこり笑ったナルシッサから、強大な圧力を感じ取ったらしいドラコは、それ以上何も言わずに黙々と飾り付けを進めた。