死の秘宝

□05.記憶
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プリベット通りの上空に、不気味な黒い輪ができていたとき。

スネイプはマントを目深に被り、数十人の死喰い人の輪の一角から点々と見える街明かりを見下ろしていた。

まだ成人してもいない魔法使い1人のために、これだけ多くの大人が待ち構えていることが、ハリー・ポッターという少年の存在の大きさを示している。

“それらしく振舞え”と言ったダンブルドアの言葉を再度心に刻みながら、スネイプはまもなく来るであろう一団を迎え撃つために杖を抜いた。

護りが施された家から出てくるのが15人以上の団体であることを周りにいる仲間は知らない。

ハリー・ポッターと、彼を護送する騎士団の誰か――多くてもせいぜい2.3人程度だと思っている。



「殺さぬよう気をつけるのだぞ。ハリーとユイは客人として丁重にもてなさねばならん」



遮るものが何もない上空に、クツクツと喉の奥で笑うような声が広がっていく。

楽しんでいるようにも、脅しているようにもとれる冷たく乾いた声だった。

“殺さず捕らえる”ということに慣れていない面々は、唸るように返事をした。



「来た!」



誰かの大きな声が響きわたった。



「ポッターがいないぞ!」

「変身してるんだ!」

「構わず殺しちまいな!」

「ダメだ全員捕らえろ!」



輪の中心に飛び込んできた3つの影に向かい、何十という黒い影が襲いかかる。

一網打尽、と思えたのも赤い閃光が上がるまでだった。



「いや待てまだ来るぞ!」

「さっきのは囮か!?」

「いたぞポッターだ!」

「どれが本物だ!?」

「熟練した魔法使いがついているのを狙え!」



想定外の展開に上空は一時パニックになり、それから激しい戦いが四方八方で繰り広げられた。

あたり一面が緑色の光で埋め尽くされ、スネイプも戦いに加わった。

一塊になっていた数人のハリーとその護衛たちが死喰い人の攻撃を潜り抜け、バラバラに散らばっていく。

どれが本物なのかまではわからないため、スネイプは近くにいた仲間と一緒にその中の1組を追った。


乗り手の1人は見知った鳶色の髪の持ち主だった。

せっかくだから一発お見舞いしてやろうかと何度か呪いを放つものの、動いている的にはなかなか当たらない。

そうこうしているうちに反撃を受け、避けたはずみでフードが外れてしまう。

が、今さら正体がばれたところで何という事はない。

スネイプはフードを直すこともせずにリーマスを追いかけ、引き続き呪いを放った。


(なんだ……?)


ダンブルドア殺害の恨みで集中砲火を受けるかと思ったが、リーマスは反撃をやめ、スネイプに背を向けた。

その一瞬の隙を見て、北へ向かう背中へ先を行く死喰い人が杖を振り上げる。

スネイプはその腕めがけて呪文を放った。

が、わずかに逸れた切り裂き呪文は2人乗りの箒へと向かって行く。



『プロテゴ!』



間一髪のところで、箒の乗り手に当たるはずだった魔法は弾かれた。


目と耳を疑った。

動いているものを攻撃することより、動いているものを守る方がずっと難しい。

にも関わらず、寸分違わぬ完璧な魔法だった。

そして、聞き覚えのある声。


気づいたときにはもう身体が動いていた。

飛んでいくことすらもどかしくて、姿がはっきりと見える距離を姿くらましで移動する。

ぴったりユイのとなりに姿現しをしたスネイプは、細くて白い手が箒に吊るされた指輪に伸びているのを見て、力まかせに引っ張った。



『えっ』



驚きの声は紛れもなくユイの声で、スネイプはそのまま箒から引き剥がすように手を引っ張り、姿くらましをした。



***
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