番外編

□6-18.5 もう1つの惚れ薬事件
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「飲みすぎ?」



ユイが医務室に運び込まれた知らせを聞いて眠れない夜を過ごしたドラコは、いっきに脱力した。

うわさでは“毒を盛られた”という話も聞いていたため、もしかしたらまた自分のせいで――と考えていたところだった。

とんだ肩透かしをくらってぐったりとソファに背を預けたドラコは、寮に戻ってきたユイの様子がおかしいことに気づいた。



「……どうしたんだ?」

「まだ二日酔いが治らないらしい」

「そうじゃなくて」



倒したばかりの体を起こし、ドラコはユイをまじまじと見た。

具合悪そうにフラフラしているユイの腕は、しっかりと隣の男――セオドール・ノット――に絡められている。

自分で言うのもなんだが、パンジー・パーキンソンがいつも自分にしているようだと、ドラコは思った。

そもそも、退院してきたユイにノットが付き添っているのもおかしい。

いくらひょろりとした体形が似ているからといって、スネイプの代わりにノットはないだろうと、ドラコは混乱した頭で考えた。



「ああ、これ?」



ドラコの視線に気づいたノットが言った。

ちゃっかり左手をユイの肩にまわしている。



「見舞いに行ったときに渡したチョコレートに惚れ薬が入っていたらしくて」

「“らしくて”って……お前が渡したものなんだろ?」

「以前男でも同じ効果があるのかなと興味本位で作ってみて、馬鹿馬鹿しくなって放っておいたのを忘れてたんだ。まだ残っているけど、マルフォイも使うか?」

「僕がそんなもの使うわけないだろう」

「だよな。お前には必要ないよな」

「それよりノット、どうするんだ、それ」



ドラコはユイを指差した。

ユイが誰かと腕を組んで歩くだなんて考えられないから、バッチリ薬は作用しているのだろう。

スラグホーンが説明していたような妄執的な愛は作り出していないようだが、だからといって放っておけるものでもない。



「しばらくすれば戻るんじゃない?」

「ノット、お前……わざとだろ」



「まさか」と言いつつユイと手をつなぐノットを見て、ドラコは確信犯だなと思った。

こんな時に頼りになるのは寮監でもあり元魔法薬学教授でもあるスネイプだが、今のドラコはスネイプを頼りたくなかった。



「ドラコー、ユイが戻ってきたって聞いたんだけど……って、ノットあんた何してんのよ」



丁度いいタイミングでパンジーがやってくる。

これ幸いと、ドラコはパンジーに状況を説明して助けを求めた。



「スネイプ先生に言うのが1番じゃない?」

「そうだけど……」

「でも、あの状態で見せるのは危険ね」

「だろ?都合がいいことに、今日は日曜で授業もない」

「寮から出ないように言い聞かせれば惨事は免れる……ってこと?」

「ああ。あとは僕らが目を瞑れば……」



チラッと様子を窺ったドラコは、すぐに見て見ぬふりをするのは無理そうだと悟った。

パンジーも同じ事を思ったらしく、おもいっきり顔をしかめている。



『テディ、週末に出されてた変身術の宿題やった?』

「いや。あと半分くらい残ってる」

『じゃあ一緒に図書館行ってやらない?』

「いいけど。もうちょっと休んでからにしたほうがいいんじゃないか?」



まず“テディ”という甘い響きに衝撃を受けた。

それから、いつも他人を寄せ付けないオーラを出しているノットが、平気で自分のパーソナルスペースにユイを入れてベタベタしているのも見ていて気分が悪い。

ノットの方も何か盛られているんじゃないかと思えるほどだ。



「ユイ、水飲む?」

『んー、大丈夫……』

「飲んだほうが良いと思うけど。なんなら口移しで飲ませてあげようか?」

『いい!いい!自分で飲む!』



わりと普通の反応で安心した。

などと言っている場合ではない。

ドラコはパンジーと顔を見合わせて無言で頷き、ユイを連れ出した。




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