番外編
□6-18.5 もう1つの惚れ薬事件
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スラグホーンは留守で、医務室にはハリー達がいる。
となると、ドラコに残された選択肢はスネイプしかない。
自分から頼むのは癪だから、向こうが気づいてくれればいい。
そう考え、2人を大広間に連れて行ったのが間違いだった。
「ねえドラコ、スネイプ教授が睨んでる気がするんだけど……」
「そうだな。気のせいじゃないと思うぞ」
2人でいちゃつきながら昼食を食べるユイとノットに、スネイプの目は釘付けだった。
様子がおかしいユイを見て、すぐに嫌味の2つ3つ引っさげてやってくると思っていたが、予想に反してスネイプは自分の席から動かない。
瞬きすらせずに、穴が開くほど2人を見ている。
目から闇の魔術を放てるなら、今頃ノットは磔の呪いにかかっているだろう。
そんな表情だった。
しばらくしてノットもそれに気づいたらしく、顔を引きつらせ始めた。
『テディ、どうしたの?』
「いや……ちょっと寒気が……」
『寒気?熱あるんじゃない?』
ユイがノットの額に自分のおでこをくっつけたところで、ついにスネイプが立ち上がった。
わざわざ食事中にスネイプを見る生徒なんていないため、他の誰もスネイプの離席には気づいていない。
ただ、間違いなく、ダンブルドアは気づいている。
こめかみをピクピクさせているスネイプを見て、こともあろうに楽しそうに笑っていた。
「Mr.ノット、顔色が優れんようだな」
凍てついた声が、頭上から降ってきた。
真っ黒な姿が、一瞬だけ吸魂鬼に見えた。
気のせいではなく、周囲の気温が下がったように感じ、数名が身を震わせる。
ドラコは巻き込まれないよう身を小さくし、目の前にあるプディングを食べることに専念した。
『寒気がするって言ってるんです』
勇敢にも、ユイが口を開いた。
口調も表情もいつも通りだが、右手はノットの左腕に絡みついている。
それをスネイプが見逃すはずもない。
スネイプのこめかみがピクリと動いたのが、顔を伏せたドラコの視界の端に映った。
「さすが魔法薬学でポッターと1・2位を争うだけの実力を持つ者は違いますな。寒気がするからといってそのような原始的な暖め方をするなど、常人には考えもつかぬことだ」
『これは別に、暖めるためにやってるんじゃありません』
「では何を?新しい脈の取り方でも思いついたのかね」
『好きな人と腕を組んでいて何が悪いんですか』
この瞬間、確かに場が凍るのをドラコは感じた。
もう恐ろしくてスネイプの顔をうかがう気にもなれなかったが、正面のノットを見れば、スネイプが今どんな表情をしているのか想像するのは難しくない。
「ユイ、さすがにそれはまずいって」
冷や汗ダラダラのノットが、こそこそとユイに耳打ちをしている。
自業自得だと言ってやりたいところだが、絶対零度のスネイプを背後に控えて、そんないい加減なことも言えない。
ノットが減点なり罰則なりを言い渡されて済む程度ならいいが、このままではスネイプの怒りの矛先がユイに行きかねないし、なによりスリザリン寮のテーブルが凍結しかねない。
『いいのよテディ、別に知られたからって困るもんじゃないわ』
義兄の心配をよそに、ユイだけはスネイプのブリザード攻撃もどこ吹く風だ。
血の気の引いたノットの顔を、心配そうに見上げている。
「ど、どうしたんだユイ、変なものでも食べたんじゃないのか?」
助け舟を出したドラコの声は、妙に上ずっていた。
“例えば惚れ薬とか”なんてことはさすがに言えないが、そこはスネイプ自身に気づいて欲しいところだ。
ユイのことをどうこう言う前に、スネイプは去年まで魔法薬学の教授をやっていたのだから。
「……なるほど」
ドラコの願いが通じたのか、背後の冷気が若干弱まった。
恐る恐る振り返ると、不気味な微笑を称えたスネイプがそこに立っていた。
「顔色が芳しくないですな、Mr.ノット。風邪が流行る時期だ、大切な“彼女”にうつしては心苦しかろう。我輩が特別に薬を煎じてさしあげようではないか」
「い、いえ、結構です。医務室に行って元気爆発薬をもらってきます!」
『待ってテディ、私も――』
「君は我輩と共に来たまえMs.モチヅキ、君もやっかいな病にかかっていると見える」
『えっ?大丈夫ですよ!それより私、テディが心配なんで――』
「我輩への口答えは許さんぞ、ユイ。今すぐ、我輩と共に、来るのだ」
『医務室に行ってから向かいます』
「今すぐにと申し上げたはずだユイ。君は監督生であり、我輩は寮監である。これは仕事の依頼だ。断れはしまい」
『ちょっとスネイプ教授!そういうの職権濫用って言うんですよ!』
大広間の入り口付近でスネイプに捕まったユイは、ズルズルと引きずられるようにして連れて行かれた。
***