番外編

□事件は地下牢教室で起きている!
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トントン、トントントン――。

ドラコ達の部屋を修理してスネイプの私室に戻ってきたユイが、他人に見られないよう細心の注意を払っていつも通りノックをすると、中から仏頂面をした少女が出てきた。



『見ました?私、なかなか演技上手いですよね?』

「我輩の姿ではしゃぐな気持ち悪い」

『自分で気持ち悪いって言わないで下さいよ』

「そういう意味ではない」

『わかってますすみません!』



ユイはついいつもの癖で、自分の姿相手に頭を下げてしまった。

その様子を見てスネイプは顔をしかめ、今の姿には不釣合いな大きめのデスクに向かった。

机の上には何冊もの本が積み上げられ、どうにかして元に戻る方法をと考えていた形跡が見られる。



『解決策、見つかりそうですか?』



ユイはスネイプの後ろから、本を覗き込んだ。



「いや。――だが、棚の薬品が原因で入れ替わったのであれば、成分を分析すれば糸口をつかめる可能性は高い」

『この手のネタは、1日経つと元に戻るっていうのがお約束ですよ?』

「ネタだか約束だか知らんが、信用に足る証拠はあるのかね?」

『それは……、とにかく、今日1日なんとか乗り切ってみましょう。明日になっても戻らなかったらまた考えればいいですって』

「先ほども聞いたが、なぜ君はそんなにも平然としていられるのだね。体が入れ替わることでどんな弊害があるか、先ほど君自身が語ったばかりであろう」

『仕方ないじゃないですか。割り切りましょう。で、明日になって元に戻ったら、お互いに記憶を消す、と』



周りの人間にばれる事がなければ、それで問題はないはずだ。

ユイは最大限の妥協案を示したが、スネイプは首を縦に振らなかった。



「いっそ1日気絶をして済ませられんのか」

『それはまた強硬手段ですね……』

「1日とはいえ、記憶がなくなるとはいえ、我輩が女子学生のふりをするなど――」

『なんとかなりますって。“スネイプ教授のモノマネがマイブームなの☆”とでも言っておけば、たいていみんな冷たい目で見つつ流してくれますよ』

「それに、女子寮や女子トイレでうっかり元に戻ってみろ。ホグワーツにはいくつ絵画があると思っているんだ。生徒は何とかなったとしても、絵画やゴーストの口までは塞ぐことができんぞ」

『確かに……私も教授の姿していること忘れてうっかり女子トイレ入っちゃいそう――って冗談ですって!というかなんで教授のほうが気にしてるんですか!こういう場合、普通気にするのは女子側でしょうよ!』

「君が冷静すぎるだけだ!」

『いやいや、ものすごく動揺してますって!引かれるの覚悟して言えば、男性がどうやって用を足すのかすら詳細はわかんないですし、男子トイレって――』

「もうよい!」



ユイの姿をしたスネイプは、真っ赤になっていた。

自分の顔がこんなにもわかりやすいものだとは、ユイは知らなかった。



「まず、我輩の声で、そのような軽はずみな言動をするのはやめたまえ」

『じゃあ教授も私の顔で眉間に皺寄せるのやめてくださいよ。それから、足も』

「足?」

『女子の制服はズボンじゃないんです』



100歩譲って眉根を寄せるのは許すとして、スカートをはいているのだから座るときは膝を閉じて頂きたい。

そんな座り方をしたのではパンツ丸見えではないか。

そうユイが遠まわしに告げると、スネイプは眉尻をピクピクと痙攣させて、足を閉じた。

耳の端まで赤くなっている。



『教授が恥ずかしがらないで下さいよ。私の体なんですから、私がパンツ見たところで別に――』

「パンツパンツ連呼するな!」

『1回しか言ってません』

「……」



体の構造が影響しているのか、思いのほか冷静なユイとは違い、スネイプは完全にてんぱっていた。



「とにかく我輩が君のふりをするのは不可能だ。体調不良という事にして午後の授業は休み、ここで元に戻る方法を探る!」

『ないと思いますよ。そういうお約束です。ちなみにダンブルドアに助けを求めにいくと、かなりの確率で面白がられるという統計も――』

「なんの統計だ!」



ダンブルドアの名前が出たとき、それだ!と顔を輝かせたスネイプは、いっきに落胆した表情になった。



『教授って実は表情豊かなんですね。いつもしかめっ面しているように見えるのって、実は表情筋が――いえ、なんでもないです』

「いつまでも馬鹿げたことを言っていないで、少しは協力したまえ」

『協力って、何にですか?』

「決まっているであろう。成分の分析だ。棚の薬品が原因で入れ替わった可能性が高い以上、解決策の糸口もそこにある」

『わかりました。ひとまず変声薬使いません?違和感ありまくりで気持ち悪いです』

「それは我輩のセリフだ馬鹿者が」



ポリジュース薬を飲めばいいだけなのではないかという結論に達するまで、2人の議論は午後の授業を潰して延々と続いた。





Fin.
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