不死鳥の騎士団
□11.秘密の魔法
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「どうしてこの本を?」
『先取り学習、かな』
「そんなに急がなくてもいいんじゃない?」
『勉強はクィディッチじゃないもの。フライングしたって反則にはならないわ』
「ははっ、確かにそうだ。それじゃ、僕はフライングに感謝しないとだな」
『なんで感謝?』
「ユイのフライングのおかげで僕は助かった」
声を低くし、セドリックはさっと辺りに目を配った。
「まだちゃんと、お礼を言えていなかったから」
セドリックは「ありがとう」と言って、ユイの手を握った。
わずかにセドリックの目に影がよぎり、あの時のことを思い出しているということが見て取れる。
あの時セドリックは、氷の壁1枚を隔てて死の呪文を受けている。
死を告げる緑色の光が視界を覆うというのは、恐怖以外の何物でもない。
トラウマになっていてもなんらおかしくない。
だが、それを恐ろしい記憶として留めることが出来るのは、生き残ることができたという証だ。
ユイは力強く握るセドリックの手の温もりを感じて、彼を死から救うことができたんだという実感がじわじわとわいてきた。
「ユイがいなければ、僕はまたこうしてホグワーツに戻ってくることは叶わなかった。本当はもっと早く――魔法省で会った時にでも言うべきだった」
『気にしなくていいのに』
「そういうわけにはいかない。僕は無傷で戻り、ユイは瀕死の状態だった」
『セドリックのせいじゃないわ』
「ユイの言うとおり、さっさとポートキーのところに戻っていればよかったんだ……ごめん」
『“事故”だから、セドリックが謝ることないのよ』
「“例のあの人”が復活したんだろう?」
セドリックはいっそう辺りを警戒して、声を低くした。
ユイは声を出さずに頷き、大広間の方の様子を伺う。
フィルチの怒鳴り声とアンブリッジの甲高い声が聞こえてくる。
犯人が……規則が……魔法省が……と、何やら熱くなっているようだ。
「魔法省はどうしても認めたがらないみたいだ」
『みたいね。そのせいでハリーは罰則を受けてるわ』
「ひどいな」
この場にいるのは得策ではないと考え、セドリックは立ち上がった。
どこか離れた場所へ……と思ったが、玄関ホールにさしかかったところで、運悪くアンブリッジに見つかってしまう。
「あらあら、こんな時間に何をしているのかしらね」
「見回りです、アンブリッジ先生」
騒ぎ声が聞こえた気がして見にきたという話を口々に説明すると、アンブリッジは疑いの目を向けてきた。
「誰の声だか分かったの?」
「ピーブズだと思います」
『私もピーブズだと思いました』
「そう。でもあなたたちの場合、幻聴という可能性もあるわね」
「どういう意味ですか?」
「危険な試合のせいで、幻覚を見たんですもの。後遺症が残ってもおかしくないわ」
にっこり微笑むアンブリッジにセドリックが顔をしかめたとき、大広間の方からガシャーンという大きな音がした。
「行ってみたらいいんじゃないでしょうか」
「もちろんそうするわ。あなたたち2人はもちろんすぐに寮に戻るわよね?」
「『はい』」
次にアンブリッジに見つかったら言い逃れが出来ないため、ユイとセドリックは大理石の階段を下った。