不死鳥の騎士団
□4.グリモールド・プレイス
2ページ/6ページ
「箒で行くの?」
「ああ、それしかない。君は姿現しには若すぎるし、煙突ネットワークは見張られている」
「心配するな。わしらが護衛につく」
「ハリー、君は箒が得意だろう?」
隊列を組むよう指示するムーディとリーマスの横で、ハリーはチラッとユイを見た。
ハリーの不安そうな声に首を傾げていたリーマスも、ユイが箒を持っていないことに気づいて、しまったという顔をした。
「ごめん、君がいるとは思わなかったから……箒は持ってきていないのかい?」
『あるけど……』
「ユイは1年生のときの飛行術の試験で、0点だったんだ」
「0点!?」
『ハリー、声が大きいわ!』
全員が、信じられないといった表情でユイを見た。
『いや、えっと、飛べないわけじゃないんですよ――その、皆様が見た目にこだわる人でなければ……』
ユイはカバンから自転車のハンドルとサドルつきの箒を取り出して見せた。
一瞬の沈黙。
その後、トンクスが噴き出した。
「いいじゃない!最高!今度私もそれに乗せて!」
「……まあ、この際見た目には目を瞑ろう。それなら飛べるんだな?」
『はい。ご迷惑おかけしない程度には飛べると思います』
「ならいい。行くぞ」
ムーディは気を取り直して、隊列の話に戻った。
「いいな?誰かが殺されようと、列を崩すな」
「合図だ。出発!」
リーマスが大声で号令した。
緑の火花が、真上に高々と吹き上げていた。
ユイは地面を強く蹴り、遅れを取らないようにハリーの後ろにぴったりとついた。
窓から心配そうにのぞいていたフィッグばあさんの顔が見えなくなり、灯りがあっという間に豆粒ほどになる。
「左に切れ。左に切れ。マグルが見上げておる!」
背後からムーディが叫ぶ。
トンクスが左に急旋回し、ハリーと一緒にユイも続く。
高く高く上昇した一向は、辺りの様子を伺いながら下降し、人目の少ない河面上すれすれを飛んだ。
飛ぶのが久しぶりだったユイにとって、凍えるような遥か上空を、時間をかけて本部へ向かう原作コースでなかったのはありがたかった。
ハリーは生き生きとして、楽しそうにトンクスと目で会話しながら夜空の飛行を楽しんでいるようだったが、ユイには飛行を楽しむ余裕はない。
(と、飛ぶのって大変……)
リーマスが「下降開始の時間だ!」と告げるころには緊張で疲れ果てていた。
トンクス、ハリーの順で小さな広場に着地し、すっかり元の姿に戻ったユイも、なんとかぼさぼさの芝生の上に降り立った。
身長と一緒に元気までしぼんでしまった気分だ。
「ここはどこ?」
ハリーの問いかけにリーマスは答えず、小声で「あとで」と言った。
ムーディが目で黙るように指示し、辺りを警戒しながら杖で3回地面を叩く。
すると、目の前の壁が割れるようにして左右に動き、隙間から新たな壁が出現した。
まるで、両側の家を押しのけて、もう1つの家が膨れ上がってきたようだった。
ガチャン、ガチャン、と音が鳴るたびにドアが現われ、窓が現われ、ベランダの柵が飛び出てくる。
家ごと動いているというのに、住民は誰一人気づいていないようで、ステレオの音や笑い声が聞こえていた。
ポカンと口をあけて見上げているハリーをムーディが促し、一行はほとんど真っ暗闇の玄関に入った。
*