番外編
□4-3 [IF]ドラコ少年の苦悩
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ドラコ・マルフォイには人には言えない悩みがあった。
僕は純血貴族のマルフォイ家に生まれ、何不自由なく育った。
ホグワーツに入ってからもクィディッチの選手に選ばれ、成績も申し分ない。
おまけに、みんなが一目置くユイと、寮生の誰よりも親しいと自負している。
ハリー・ポッターのせいでドラコの学校生活は全てが順調とは言えなかったが、この際無視することにする。
問題は“生き残った男の子”ではない。
目の前にいる父親だ。
まだ日も十分に昇っていない時間なのにもかかわらず、隣の部屋から物音が聞こえ、不審に思ったドラコが様子を見に行ってみれば、ルシウスが部屋の模様替えをしているところだった。
聞けば、今年はここをユイの部屋にするらしい。
「父上、ユイが来るまではまだ時間があります」
「わかっている。しかし、女性を迎え入れる立場の者として、事前の準備は念入りにしておく必要があるだろう」
「ですがまだ5時です」
「ドラコはまだ寝ていなさい」
「いえ。父上が起きるのであれば、僕も起きます」
紳士たるもの当然だという態度をとられては、自分だけが寝ているわけにはいかない。
早朝から杖を振って準備をするルシウスの後姿を、ドラコは眠気まなこをこすりながら見ていた。
(1泊したらすぐにワールドカップ会場に行くのに……)
1泊だからと手を抜くのが良くないことだとはわかるが、さすがにこの時間からやる必要は感じられない。
模様替えをするにしても掃除をするにしても、杖を一振りすれば済む話なので、ユイが来てからだって間に合う。
(どうせなら本人の希望を聞きながら部屋を作った方がいいんじゃないか?)
ドラコが素朴な疑問をルシウスにぶつけてみると、ルシウスは「盲点だった」と心底喜び、リビングに下りた。
それから数時間、小鳥が朝を告げる声を聞きながら紅茶を片手にのんびり過ごすという優雅なひと時を送った。
が、その間、ずっとルシウスの視線が何度も時計に行っているのをドラコは見逃さなかった。
(嫁に行った娘が久しぶりに帰郷するんじゃないんですから……)
ドラコは父親の異常な関心ぶりに閉口していた。
確かにユイは年齢問わず、誰からも好かれる素質はあると思う。
ナルシッサもユイのことを娘のように可愛がっているが、ルシウスの場合は少し違うように思えてくる。
娘のようにというよりは、1人の女性として見ているのではないかと不安になるときがある。
学校にいるドラコへ手紙をよこすときはいつも、返事にユイの様子を書くよう要求してある。
ドラコが休暇で家に戻ってきてからも、毎日のようにユイの話題が出る。
それはやはり、何か、越えてはいけない一線を越えてしまっているようにも感じた。
(父上、どうか威厳ある父上のままでいてください……)
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