番外編
□4-3 [IF]ドラコ少年の苦悩
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「来たようだな」
玄関先に現れたスネイプとユイを見て、ルシウスは、口の端をあげた。
「女性の成長は早いな」
「そうね。また服を選ぶのが楽しみだわ。ドラコ、お出迎えに行って差し上げなさい」
「はい。母上」
「私も行こう。セブルスの機嫌が悪いようだからね」
玄関に向かうドラコの後にルシウスが続く。
ルシウスがスネイプの機嫌が悪いのを楽しんでいるようにも見え、ドラコは不安になった。
『ドラコ!久しぶり!』
笑顔で手を振るユイだけがいつも通りで救われる。
「待ちわびた」と言うルシウスに、スネイプから鋭い視線が飛ぶ。
『ルシウスさんも、お久しぶりです。このたびはクディッチ・ワールドカップに招いて頂きありがとうございます』
「堅苦しい挨拶は抜きだ、ユイ」
『いえ、お世話になるのですから、そういうわけには――』
「他人行儀は嫌いでね」
これがルシウス・マルフォイのセリフかと思われる言葉を言いながら、ルシウスはユイに近づき、小さな体を腕の中に収めた。
スネイプのこめかみがピクリと動くのを見てしまい、ドラコの背筋を冷たいものが流れる。
あの表情は、ポッターが何か目立つことをしていい気になっているときにスネイプが見せる表情だ。
つまり、目の前の光景を快く思っていない証拠だ。
『ちょ、ルシウスさん!』
「なるほど、東洋人は照れ屋というのは本当のようだな」
『ひゃっ』
ルシウスは横目でスネイプを見てニヤリと笑い、ユイの頬に軽く音を立ててキスをした。
あいさつだと分かってはいても、父親が自分の同級生にキスする姿というのはあまり見たいものではない。
しかも相手がユイと来れば――。
『ななな、何をっ』
ユイは真っ赤になって頬を手で押さえ後ずさった。
あんな反応をされたのでは、とてもじゃないが挨拶には見えない。
そう思っているのはドラコだけではないようで、スネイプのこめかみに青筋が立った。
これはいよいよ危険だ。
「何って、挨拶だが?」
余裕の笑みで言いながらも、ルシウスはユイを逃がさないように、両手で肩をしっかりと押さえている。
「セブルス、ユイにはもう少し英国式の社交を学ばせた方がいいのではないか?」
「必要ありますまい」
「何を言う。君と一緒にしてもらっては困るな。ユイには淑女として――」
「必要ない」
「慣れねばこれから苦労する」
「社交的な場に行かねばよいだけのこと」
「それを決めるのは君ではないはずだが?」
「貴方でもありますまい」
バチバチと見えない火花を飛ばす2人を見て、ドラコは顔をひきつらせた。
ユイ本人をさしおいて、いい大人が2人で何をしているのだ。
しかも1人は妻子持ちで、息子がすぐ傍にいる。
もう1人も独り身とはいえ、ユイとドラコの学校の教師だ。
どちらもユイの将来の私生活について熱く語るような立場ではない。
2人ともドラコが尊敬しているだけに、目の前で繰り広げられる冷戦は見るに耐えない。