炎のゴブレット
□2日目
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「ここのページに載っている乾燥させたヒキガエルの肝を加える過程だが、去年発行された改訂版の45ページの記載と矛盾が生じてるんだ」
(え、ちょ、隣って!)
「ヒキガエルの肝は細かく刻んでから天日干しにするのが普通だが、これだと丸々1つを乾燥させてからすりつぶすようになっている。僕はむしろ……」
(近い近い!この至近距離で覗き込まないで!)
「……だから、僕はこっちの……で、……の段階で量を調整して……こっちの過程みたいに……だと思うんだが……」
スネイプはユイに別の本を開いて見せながら、細長い指で文章をなぞり、熱心に持論を語って聞かせた。
その熱弁っぷりから、本当に魔法薬が好きなんだなということが手に取るようにわかる。
闇の魔術に対する防衛術を希望しているスネイプに、魔法薬学を教えさせているダンブルドアの人を見る目は間違えていないと思う。
「……聞いてるか?」
『は、はい聞いてます!』
「じゃあどっちが正しいと思った?」
『え、えっと……』
「……」
緊張やら何やらで話半分にしか聞いていなかったため、どちらが、と問われても答えようがない。
適当に答えるのも嫌だったので、ユイは素直に『隣に座られて緊張して頭に入ってこなかった』という旨を伝えた。
すると、それまで生き生きと語っていたスネイプは、急に顔を曇らせた。
「もっとはっきり言えばいいだろ」
『え?』
「読んでいた本が興味がある本とは限らないんだから、隣でベラベラしゃべられても迷惑なだけだって]
『そんなこと思ってないですよ』
「じゃあ、僕なんかに隣にいられること自体が迷惑なんだろ」
『ちょ、なんでそうなるんですか!』
「ふん、自分で言ったくせに――」
どうせ考えていることはみんな同じだ、とぼそっと言い残し、スネイプが立ち去った。
あっけに取られていたユイは、談話室の仕掛け扉が閉まる音で我に返り、慌てて後を追った。
(どんだけマイナス思考なのよっ)
“隣に座られて緊張した”という、遠まわしな告白のようなセリフを、どうやったら“迷惑”だと解釈できるというのだ。
普段スネイプがどういう扱いを受けているのかが垣間見えて、ユイは何とかしなければと妙な使命感を抱いて薄暗い廊下を走った。
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