炎のゴブレット
□【過去編】1日目
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バチンという独特の音を立て、墓場から消えたユイは、地面に叩きつけられるようにして地面に転がった。
満身創痍の体に姿くらましはこたえる。
気持ち悪いどころじゃない。
全身がだるくて頭は割れそうで、失敗して体がバラけているんじゃないかというくらい痛い。
ヴォルデモートと決闘した直後に姿くらましをしたハリーの体が心配だ。
『う……ハリー……大丈夫……?』
周りの様子を見るために、頭を持ち上げただけでクラクラする。
立ち上がったら確実に吐くだろう。
(とりあえず、戻ってこれたのかな……?)
競技場ではなさそうだし、ハリーの姿もクィレルの声も聞こえないが、視界の端にホグワーツ城が見える。
墓場から、ヴォルデモートの元からは逃げてこれた。
それだけでも今は十分だ。
ユイは体を起こすのを諦め、ごろんと横になって空を仰いだ。
静かに星が瞬いている。
たったそれだけのことに妙に安心感を抱き、そのままゆっくりと目を閉じた。
***
『って、寝ている場合じゃなかったわ!』
朝日の眩しさに目を覚まし、ユイは叫んだ。
クラウチJr.が魂を抜かれないように、ファッジがディメンターを連れてくる前に戻らなければいけなかったというのに、いつの間にか朝になってしまっている。
父親に続き息子まで――知っていたのに、何もできなかった。
全てを救うことの難しさを、改めて思い知らされる。
(ハリー……セドリック……)
2人の安否が急に心配になってきた。
状況的に無事に帰れただろうという予想がつくだけで、実際に自分の目で見て確認するまでは安心できない。
『ていうか、誰も探しに来てくれないってどういうことよ!教授のバカバカ!』
なんのための追跡機能つき時計なのだ。
夜が明けても戻っていなかったら、心配してくれてもいいじゃないかとユイは拗ねた。
駄々っ子のようにゴロゴロと芝生を転がり、横を向いてピタッととまった。
『……あれ?』
(クィディッチピッチ?)
ユイのすぐ近くには壁があり、そこから上空に目をやると、青空に浮かぶ3つの輪が見えた。
高さ違いの3つの輪――間違いなく、クィディッチのゴールだ。
移設かとも思ったが、シリウスはそんな話はしていなかった。
何より反対方向に見えるホグワーツ城との位置関係からして、もともとクィディッチの競技場があった場所に間違いなさそうだ。
『もう復旧したんだ?』
自分で言っておきながら、違うだろうと心の中でツッコミを入れる。
昨日の今日で巨大迷路が消えて元通りになるとは思えないし、何より競技場の外に自分が転がっていて、誰の目にも止まらなかったなんてことはありえない。
無視された可能性は――ない、と信じたい。
(まさか、死んでゴーストになったとかじゃないわよね?)
消える前に一瞬見えた緑色の光が気になる。
こんな志半ばで死んでいられない。
でも、この、あきらかに試合終了から時間が経ちすぎているこの状況――。
嫌な予感をぬぐいきれずに、ユイは近場の木で腕がすり抜けるか試してみた。
『――っ痛ぁ!』
ビリビリと痺れる感覚に、生きていて良かったという気持ちと、思いっきりやることなかったじゃないかと自分を馬鹿にする気持ちが入り混じる。
『夢でもなさそうね……』
腕をさすると、めくれた袖から黒い印が垣間見えた。
数時間前に、ヴォルデモートによってつけられた闇の印だ。
これで正式に、死喰い人の仲間入りを果たしたことになる。
『教授、怒るだろうなぁ……』
セドリックを助けることができたら褒めてもらおうと思っていたのだが、どうやら名前呼びは期待できそうにない。
それどころか、夏休み中ずっと口をきいてくれなさそうだ。
(今後いっさい面倒見ないとか言われたらどうしよう……)
ため息をつきながら、とりあえず現状を把握しなければとユイは城を目指して歩き出した。
*