番外編
□3.14-16 甘味の素
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ハリーにパトローナスを見せたユイは、リーマスと並んで城へ戻った。
降り続いた雨の名残がところどころに残り、太陽の光を含んだ滴が葉の上をすべる。
すがすがしく晴れ渡った空の下、ユイはぬかるんだ地面に足を取られながらホグワーツに戻った。
リーマスは「へぇ」「すごいね」と楽しそうに繰り返している。
「今まで1人で呪文の練習をしてきたんだろう?」
『ええ、まあ……』
「スネイプ先生のことを考えながら?」
『……』
「はは、照れることじゃないさ」
リーマスに半ば強引に幸福な思い出は何かを言わされたユイは、恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだった。
ユイがこの話題を避けたがっているとわかっているはずなのに、しつこいくらいに話を続けてくる。
「スネイプ先生のどこがいいの?」
『……』
「あ、ごめん。別に他意はないんだ。いいところがないって言っているわけじゃない。ただ、セブルスは――」
『言わないでください』
ユイは振り返って、リーマスの目の前に手のひらをかざした。
瞬きをするリーマスに、ユイは『知ってますから』と告げた。
その切なそうな微笑がリーマスの心をチクリと刺す。
『いいじゃないですか。好きでいるくらい個人の自由で』
「ユイ、君は……」
『一緒にいられれば満足なんです。――って、ああやだ、恥ずかしい!』
いつもの笑顔に戻り、地下に戻ろうとするユイをリーマスは呼び止めた。
昔からリーマスは人の心のささいな変化に気づくのが得意だった。
だから、このときも、踏み込んではいけない何かに、踏み込んでしまったと気づき後悔した。
(まいったね。女性に優しくできるタイプじゃないよって、言おうとしただけなんだけどな……)
「よかったら、少しお茶していかないか?」
『いえ。すぐに戻るので……』
「そっか」
ハリーをよろしくお願いします、とユイは手を振って別れた。